「秀逸な人間ドラマ」シングルマン 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
秀逸な人間ドラマ
劇中主人公であるコリン・ファースは、生徒に対して“恐怖”に関する定義を話す。
時はあたかもキューバ危機に瀕し、アメリカ国民の誰しも核戦争勃発を覚悟していた。
丁度北の将軍様がテポドンを発射させ。日本人の誰しもが、その気持ちの悪さを感じた時と同じ様に。
アメリカ国民が一様に南の革命野郎を苦々しく感じていた。
しかし“愛する人”に先立たれ、いつ再発するやも知れない持病を抱える主人公には、そんな恐怖等は通り越した《或る決断》を考えていたのは必然だったのかも知れない。
映画はそんな彼の1日を追う。
全ての準備が整い…いざ…とゆう時に、彼の唯一の理解者である隣人のジュリアン・ムーアの誘いに応じる。
その仕草・行動の1つ1つが、主人公にとっては半ば癪に障る程のうざったい彼女なのだが。当時の社会通念から考えると、彼女の存在だけが彼にとっては大きな支えでも有った。
それまで禁煙していたのに煙草を吸い。酒を飲んではついつい“その計画”を先伸ばしにしてしまう。
そんな彼の元に生徒である若い青年が現れる。
今日の講義に対して意見を交わし合う2人。主人公にとっては、自分と彼との会話のやり取りから「ひょっとしたら!」の思いを徐々に強めて行く。
そして“その思い”はやがて確信へと変化して行く…のだが!
99%の確信なのだが、僅か1%の不安感が彼に新たな《恐怖》を植え付ける。
「もしも万が一、自分の考えが先走っていたとしたら…」
新しい出逢いに興奮しつつも、次の瞬間には「もしも…」の恐怖感でコロコロと表情が変わって行く。
おそらくコリン・ファースでしか体現出来ないであろう、その豊かな表現力に観客はいつしか魅了されてしまう。
グッチ等のデザイナーで知られる人が初めて映画を監督…って事で、始めは色眼鏡的に見ていたのですが。当時の雰囲気から、家の内装・家具・服等を見事に再現。(実際に当時を知っている訳では無いが)
ジュリアン・ムーアとの、2人で踊り・寝転がって語り合う場面での2人の演技のやり取り。
更に画面構成や構図等は忘れ難い場面が多い。これは秀逸な人間ドラマでした。
(2010年10月8日新宿バルト9/シアター9)