劇場公開日 2010年12月18日

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「天ぷらにしては、安過ぎる」シチリア!シチリア! ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0天ぷらにしては、安過ぎる

2011年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

興奮

幸せ

「海の上のピアニスト」などの作品で知られるジュゼッペ・トルナトーレ監督が、自身の故郷であるイタリアを舞台に描く、壮大な家族絵巻。

伝票を見て、我が目を疑った。千円と書いてある。「・・高い。」午後からの用事を前に急いで入ったうどん屋で頼んだ天ぷらうどん。六百円商品が書かれたお品書き列の真ん中に「天ぷら」とあったので、安いと喜び頼んだ。旨い、安い、早い。

満足して伝票を見たらこれである。お品書きには、ぽつんと小さく「天ぷら 千円」。してやられたと思ったが、余りに潔く、当たり前のように仕組む格好良さ。「てやんでい!やられちまったよ、べらぼうめ」と手の甲で鼻をこすりたくなる爽快感である。

本作を観賞した後に感じた想いもまた、これに似通っている。「二代に渡る愛と感動の家族物語」という宣伝文句に喰いついて物語を追いかける。親との死別、娘の結婚、破綻・・・家族ものと聞くと、自然と「挫折」と「困惑」という負の感情が軸に置かれていると考えてしまう。

だが、本作はそうはいかない。「罵声」に「怒声」。ついでに「衝突」。とにかく身体に満ち満ちるエネルギーを事あるごとに爆発させ、人生の「悲しみ」に行き着きそうなイベントを徹底的にお祭り騒ぎに変えていく。暴動も、デモも、死別も、皮肉と笑顔で軽やかに乗り切ろうとする姿勢がある。

もちろん、トルナトーレ監督が「負」に対して耐久力が強い訳ではない。むしろ、常に傷つき悩んでいるかもしれない。それでも、「悩んでどうするんでい!」と江戸っ子の如き強者のプライドが顔を出し、喜劇へと強引に持ち込んでいく。だから、観客も心が弾む。楽しい・・というより、安心する。

毎日の生活に起こりそうな些細な寸劇を、絶妙なタイミングと順番で繋ぎ合わせる作劇から見えてくるのは、観客に対して、登場する家族をしっかりと愛し、信頼し、一緒に人生の楽しみ方を感じて欲しいと考える作り手の信念、そして愛嬌だ。

「暗そう」「辛気臭そう」そんなイメージが先行してしてしまう家族の一代記映画。しかし、よくよく見れば人生をとことん楽しみ、肯定するあっけらかんとした世界が広がっている。先入観は、結構怖い。

「天ぷら 千円」も、今後の私の人生さえも豊かにしてくれるものになるかもしれない。良かった、良かった・・でも、やっぱり高い。

ダックス奮闘{ふんとう}