「これでドイツ映画だとは思わなかった」バグダッド・カフェ 4Kレストア版 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
これでドイツ映画だとは思わなかった
総合:70点
ストーリー: 65
キャスト: 75
演出: 70
ビジュアル: 75
音楽: 85
けだるい名曲「Calling you」だけはやたらと耳に残ってかなり昔から知っていたが、ようやく映画本体を見ることが出来た。しかしこれはイラクの首都バクダッドを舞台にした映画でもなければ、アメリカを舞台にしているけれどアメリカ制作の映画でもない。寂れた何もない砂漠地帯で、なんともけだるいやる気のない生活空間だけが登場する。それなのに必ずしも美しい色ではないありふれた空や薄汚れた建物や何もない砂漠を映す映像が、場面場面を切り取った芸術写真のように綺麗なことがある。
物語は特に面白いとも思わなかった。駄目人間が集まる場末の客もろくに来ないし、来てもまともな応対も出来ない幹線道路沿いの食堂が、事情は抱えていてもまともな人物の偶然の登場によって変わっていくというだけの話。だが人間関係を織り込んだその描き方には独特の感覚があり、平凡では終わっていない。決して成功物語を描きたいのではなく、冒頭に数多く登場した、見ていてこちらも嫌になるようなぎすぎすした人間関係の変化の様子を描いている。
Calling youの歌詞が言っている。コーヒーマシンも心も修理が必要だけど、変化は近づいていて、優しい解放があるのだ。店を切り盛りするブレンダはやたらと怒鳴るだけで経営者としてはひどいものだし、ジャスミンと旦那との間に何があったのか想像するしかないけれども、彼女たちに訪れた変化が全く彼女たちの表情を柔らかくしている。はっきりしないけれども幸せがゆっくりと近づいてきている予感がした。
ちなみにこの映画におけるバグダッドはカリフォルニア州の砂漠地帯にある地名でもあり、この映画の撮影をした近くの場所である。しかし原題は「Out of Rosenheim」で、バクダッドという名は使われていない。
主人公のジャスミンが最初に空に見る二つの輝く点と、その後の絵にある二つの輝く点はなんだったのだろう。自然現象としては変なものだし何か意味があるようだが、結局意味がわからなかった。