「本多猪四郎や円谷英二に見せてあげたい」SPACE BATTLESHIP ヤマト マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
本多猪四郎や円谷英二に見せてあげたい
オリジナルのTVアニメが放送されて36年になる。毎回、『人類滅亡まであと残り○○日』というラストが懐かしい。当時、周りの人はほとんど見ておらず、予定より早く打ち切られたと記憶している。それが、再放送と130分にまとめた劇場版で火がついた。
この77年に公開された劇場版だが、1年を掛けたヤマトの旅は飛び飛びになり、まさにダイジェスト、名場面集としか言いようのないものだった。
今回、ヤマトの実写版が作られると聞いたとき、まっさきに危惧したのはVFXの出来とか、キャスティングではなく、2時間そこそこであのヤマトの世界が描き切れるのかということだった。
答えは、やはりちょっと厳しかったかなというところだ。アニメ版を知っていればにんまりできるカットもあるが、初めてヤマトを見る人だと思考が追いつかない部分もありそうだ。おそらく脚本も練りに練ったのだろう。省けるところは切り、台詞で躱せるところは躱し、オリジナルの世界観は大事にする。単なるダイジェスト版にしない工夫のあとは窺えるが、できれば2部作にするぐらいのゆとりがほしかった。とはいえ、冒頭、女性スキャットに「無限に広がる大宇宙…」のナレーションが被ったときは、懐かしさに喉の奥が痛くなった。
次は実写版としての完成度だ。この作品、観る前は“スカ”か“当たり”のどちらかで中間はないと予想していた。しかも、おそらく“スカ”だろうと・・・。
ところが答えは“当たり”だった。アニメ版は未来を描きながら、どこかアナログ的な落ち着きがあった。この点はアニメチックなコミカルさが若干残されているものの、かなりシャープな仕上がりになっている。ガミラスの宇宙船やミサイルのデザインは、オリジナルを日本的というならば、今作のはかなりアメリカ的だ。それでも、全体としてはオリジナルを充分にリスペクトした仕上がりになっていて違和感はない。メインテーマも宮川泰のオリジナルをそのまま使っている。「ゴジラ」とこの「ヤマト」だけは、他の音楽に変えてほしくない。
VFXはメカ的なものの描写が殆どで、しかも動きが速いので粗が目立たず、いまの技術をもってすれば当然到達できるレベルだろう。ただ、純血日本のクルーの手によってここまでの映像が作れたことは評価に値する。アメリカ以外のスペクタクル大作で、ハリウッドのスタッフが関与しない作品はまず見あたらない。
ドラマ部分は、キムタクが思ったよりもサマになっていた。周りを固める陣容も、なんらかのドラマで共演したことのある役者が殆どで、それぞれが見せ場を作るというより、むしろ同窓会的で和やかな雰囲気だ。当然、西田敏行が佐渡先生かと思っていたら、高島礼子によって女医さんになっていたり、『あるよ』のバーテンダーでお馴染みの田中要次もちょい役で顔を出したりと、くすぐりどころも多い。残念なのは、戦闘中にもかかわらず、ドラマ部分でその喧噪が途切れるところが多々あったこと。
実写化には高い技術と費用と時間が必要なスペース・オペラを、純国産で138分飽きさせないところまで仕上げた今作は大成功といっていいだろう。おそらく、本多猪四郎や円谷英二も草葉の陰で手を叩いていることと思う。