「旅先でおかえりなさいと言われてみたい」マイレージ、マイライフ 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
旅先でおかえりなさいと言われてみたい
アメリカの都市型ホテルではビジネスやライフスタイルの小ネタ講演会が毎日のようにスケジュールされている。講師は客員ではなく、この映画のライアンビンガム(ジョージクルーニー)のように、そこに泊まっている現役ビジネスパーソン。講師としては素人に毛が生えたていどであっても、異業種に参酌したいビジネスマン向け講演が成り立つ。おそらくアメリカ人の多くがスピーチの素養を学ぶことにも所以している、とは思うが誰もができるわけではなく、デキる男に限られる。
ライアンビンガムはデキる男。独身貴族。クールな解雇宣告人。
映画中でビンガムの講演ネタの一部が聞けるが、モノ持ちになるな、という教訓だった。
キャリーバックひとつで身軽に全米を飛び回り、何百もの人々に解雇を言い渡す彼にとって、結婚も家庭もお荷物に他ならない。
それが主人公の人物像の前提としてある。
ところが、新人のナタリー(アナケンドリック)とコンビを組んで仕事をこなし、プライベートではアレックス(ヴェラファーミガ)とのアバンチュールを楽しみ、妹と妹婿の婚前ブルーに気を揉んで、それらの、ひとまとまりの山場を抜けると、自分自身が至上としてきた身軽さや、価値を信じてきたマイルに空しさを感じてしまう。それが映画の骨子。
アレックスにフラれ、傷心にうちひしがれている空の上で、1,000万マイルを達成し、機長から直々に「あなたは最も若い達成者だ」と祝福され、No,7(7人目)のプライベートカードを渡される。何度も夢見てきた瞬間なのに、彼をとらえるのは喜びとは違う感慨だった。
原題Up in the Air。
空を飛び回る話なので、エアリアルショットが多い。
タイトルロールからスタイリッシュ、人物もおしゃれ。とりわけジョージクルーニーの超スマートな保安検査通過は瞠目のかっこよさだった。
記憶に残っている映画です。
因みにすっかり売れっ子になったアナケンドリックを、この映画で初めて見た。
繰り返し思い出すシーンがある。
といって特異なシーンではない。本筋にも関係がない。伏線でもなく、何故、挿入されたのか後々になって不思議に思う、そういうシーンだった。
主人公とキャビンクルーとのやりとり。
飲み物を運んできたクルーが「Do You Want The Can Sir?」と尋ねる。それがcanとsirが繋がって「あなたは癌(Cancer)を望むか?」と聞こえる。ビンガムは怪訝に聞き返す。クルーはソーダ缶を見せながら「The Can Sir?」と言い、会話がまとまる、そういうシーンだった。
理由もなく、思い出す。