「実に雰囲気のいい大人の恋の物語。でも平板になったのは、伝記物の宿命か?」アメリア 永遠の翼 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
実に雰囲気のいい大人の恋の物語。でも平板になったのは、伝記物の宿命か?
実に雰囲気のいい作品でした。それは映像美溢れるアメリアの飛行シーンばかりでなく、前編を包み込み込む美しいサウンドトラックに相まって奏でられる夫ジョージとの変わらぬ愛の物語として『永遠の翼』が語られるからです。ジョージ役のリチャード・ギアが、一生懸命になって、君と共に人生のフライトがしたいと口説くシーンは、素敵な大人の恋のシーンとして心に焼き付くことでしょう。受けて立つアメリア役のヒラリー・スワンクも、何者にも縛られたくなくただ大空を飛んでいたいという一途なアメリアの気持ちをよく表していました。3度めのオスカーをこれで狙うわよんという彼女の意気込みが感じられる熱演でした。しかもアメリア本人は、風貌がヒラリー・スワンクによく似ているのです。これはチャンスだったと思ったことでしょうね。
脱線しましたが、ふたりの結婚式のときも、神への誓いの宣誓のときわざわざ牧師に、「誓う」という言葉を外したくらい、拘束されることを嫌ったアメリア。いわば「空飛ぶにゃんこ姫」みたいな存在を口説き落としてしまうなんて、奇跡みたいな話なんですが、それを実現した男の情熱というものは、リチャード・ギアでなければなかなかその雰囲気は醸し出せないでしょうね。
本作で頭が下がる思いとなったのは、時代考証のこだわり。最初に大西洋横断を達成した時飛んだ旧式の水陸両用機フォッカーF7をはじめ、当時のままの飛行機がそのままの姿で飛行するのはすごいと思いました。飛行機マニアなら、きっと驚くような映像ではないかと思います。
特にフォッカーF7は重量が重すぎて、当初は離陸も困難だったところも忠実に再現されています。
雰囲気のいいのですが、中盤には伝記物にありがちな散漫さが出て、淡々と進んでいくストーリーに少々退屈を感じられるかも知れません。特に中盤のヤマ場として、伝説の陸軍航空隊のパイロットであり、のちの民間航空業界の草分けとなるジーン・ヴィダルとの不倫も、いつの間にか解消してしまった描き方には疑問が残ります。
さらに当時のアメリア人気を支えた側面にある、男性至上主義に対するアンチテーゼとしてシンボルになったことが描かれていません。アメリアは、当時台頭しつつあったフェミニストにとって格好の存在になって行ったのです。逆にそのぶん当時は、男尊女卑が強く、その中で女性パイロットとして脚光を浴びるまでには、相当の苦労があったはずなのに、影の部分は省かれてしまいました。そのため全体の印象が平板になった感じは否めません。
加えて、不倫を振り切る形で飛び立った最後の世界一周挑戦のシーン。給油地のハウランド島をめざして、ガス欠のなか現地の沿岸警備隊のイタスカ号と切羽詰まった交信をかわすシーンは、緊迫感があってよかったです。でもそこで終わりなら、もっとジョージとの別れをドラマアップして欲しかったですね。直前のニューギニアのラエまで到着したところでは、通信機器のトラブルで足止めを喰らったとき、ジョージは横断計画の中止を決断していたのですから。それはジョージの不吉な直感からか、飛べなくなった苛立ちを飲酒でごまかしていたナビゲータのヌーナンが突如アメリアを口説きだしたことへへの嫉妬なのか、ともあれジョージはアメリアを止めるチャンスがあったのです。さぞかし無念であったことでしょう。そこを描いて欲しかったです。伝記映画の難しさをまたまた感じた作品となりました。
ちなみに、アメリアは遭難後もいろいろ伝説を生んでいます。旧日本軍に捕まって、密かに東京に送致されて東京ローズとなったなんて話もあります、一度WIKIなり伝記を覗いてみてください。
その神秘的な最期が謎を呼び、その後のSF作品でも度々登場することになります。記憶が新しいところでは、『ナイト ミュージアム2』で重要な役どころとして登場するのは、皆さんも覚えていらっしゃることでしょう。
今となっては、太平洋横断もジョットで当たり前の様に飛べる時代になりました。現代の人にとっては、アメリアの活躍は実感が湧かないことでしょう。しかし画面上で熱狂する当時の民衆を見ていると、アメリアの残した実績は、その時代では凄いことだったことが忍ばれます。
やがて人類は宇宙人と出会い、彼らのもたらす技術によって時間の壁を越える時代がやってくることでしょう。それはもうすぐのところに迫ってきています。
大銀河航行時代を迎えて、きっと歴史は新たなアメリアを生み出すことでしょうね。それは皆さんのお子さんかも知れませんよ。