劇場公開日 2010年9月25日

「「七人の侍」を目指した」十三人の刺客 ブロディー署長さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「七人の侍」を目指した

2025年7月1日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

興奮

知的

ドキドキ

正統派大作時代劇。やはり役所広司が主役を張ると作品がしまる。「おのおのがたの命を使い捨てにする!」というセリフ一つで観客を痺れされることができる稀有な俳優だ。俺の博打はもっと面白いぞと言う叔父の戦いに乗ってみようと甥(山田)が静かに決意するくだり、雨の中走り抜ける速馬の躍動感、参勤交代の暗い列、明かりが弱い室内の暗さやセット感を出さない宿場町などの江戸時代没入感、当時の女性のメイクの仕方、敵陣が落合宿に来ることに賭ける地政上の戦略など、邦画にありがちな安っぽさを排除したリアルを追求していて素晴らしかった。見ている側にこれは凄い邦画になるぞと予感させながら映画はラストの戦い向け緊張感を高めていく。観客には13人でどのような戦略を持って戦うのかを教えない演出も見事。世界映画史に残る「七人の侍」に挑戦したかようなラスト40分の合戦シーンは凄まじい気合を感じたがしかし少々長過ぎた。監督の意気込みに応えようと豪華俳優陣が泥まみれ血まみれになって残したカットを全て使いたいという気持ちは分かるが、そこは心を鬼にしてコンパクトに編集した方がクライマックスとして盛り上がった。また、時々はさまれる三池監督のグロ趣味はこの作品においては全くの余分。この監督の作品に必ず出てくる「残酷な目にあう女体」という演出は正統派時代劇を作り出すという挑戦においてはただのノイズでしかなくB級映画に引きずり落とす効果しかもたらさなかった。ラストの山の民(伊勢谷)の不思議な甦りシーンもまったく余分なものであり、覚悟を持った同士を率いた役所広司が主役という視点をブラさずに作り切るべきだった。最後にきて緊張感が途切れてしまい映画全体がダレた感じが否めない。結果、ビシッ!とスパッ!とラストをキメて見せた黒澤明「七人の侍」には足元にも及ばない作品となってしまった。また稲垣吾郎の演技を高く評価する声を聞くが、アイドルのイメージを崩してまで頑張った演技が必ずしも名演技だとは限らない。サントラの重厚感のある弦楽器の音は松竹の「八つ墓村」で山崎努が演じた殺戮シーンの傑作テーマ曲にインスパイアされた(パクった?)メロディーだとにらんでいる。邦画特有のチープさを見せずにラストシーンまで上り詰めていく興奮は邦画作品ではなかなか感じることのできない見事なものだったことを加味して星4つ。

ブロディー署長