劇場公開日 2010年9月25日

「名も無き私達の、物語」十三人の刺客 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5名も無き私達の、物語

2011年5月20日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

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「スキヤキ・ウェスタン・ジャンゴ」などの作品で知られる三池崇史監督が、役所広司、伊勢谷友介などを迎えて描く、時代劇。

一本の刀は、人を3人斬ってしまえば脂で刃が汚れ、満足に人を斬ることが出来なくなるという。戦国の世、己の命よりも大事なものとして扱われることの多い一振りの刀。だが、いざ戦になってしまえば、それほど最強の武器として重宝されるとは言えなかったのかもしれない。

本作は、一人の特別な輝きを放つ俳優を軸に展開するスター映画ではない。特殊能力を発揮して悪を倒すスーパーヒーローの活躍する作品でもない。力も、大した地位も無い庶民が命を懸けて一つの目的を果たす、いわば「私達の映画」なのだ。

だからこそ、庶民の代表として集められた十三人の男達に関する人間描写は、最低限の要素に抑えこまれている。本来ならば、死へと突き進んでいく侍たちの抱える現状への想い、葛藤、決意が丁寧に描かれても良い。だが、それでは「私達の」映画にはならない。

目の前の資料作りに、顧客への挨拶回りに壮絶な想いやら決心をもって挑む人間なんてそうは、いない。ただ、無我夢中で課題をやり過ごす毎日があるだけだ。本作は、そんな一般庶民の立場、姿勢を戦国の集団抗争に置き換えて作り出される。

役所、伊勢谷、山田、市村と様々な立場にある人間達が登場する。だが、彼等には一つの共通点がある。それは「誰かのために、自分を捨てて尽くす」自己犠牲を余儀なくされる点だ。決してそれを否定するでもなく、肯定するでもなく、あるがままに使命に生きる人間達の躍動、眼の輝きを淡々と見つめる視線が、観客を大らかに受け止める包容力を生んでいる。

主役級の俳優を多数掻き集め、泥にまみれて血に溺れされる作り手の姿勢。それはそのまま、俳優さえも誰かの駒であり、私達と何ら変わりない庶民でしかないことを露骨に表しているのかもしれない。

ただ、毎日をがむしゃらに生きろ。2時間強の活劇は、雄弁にそう、私達に語りかけている。

ダックス奮闘{ふんとう}