THE LAST MESSAGE 海猿 : インタビュー
「海猿」に裏切られたことがない羽住英一郎監督の達成感
伊藤英明主演の人気シリーズ完結編「THE LAST MESSAGE 海猿」が、9月18日から全国467スクリーンで公開された。劇場版第1作「海猿」を皮切りに、連続ドラマ「海猿 UMIZARU EVOLUTION」、劇場版第2作「LIMIT OF LOVE 海猿」という業界初のメディア展開を成功させ、最後を飾る今作では、邦画メジャー配給初となる3D上映も実現。シリーズ全編にわたりメガホンをとり続けてきた羽住英一郎監督に、話を聞いた。(取材・文・写真:編集部)
2006年に観客動員535万人、興行収入71億円を記録した前作で、全3部作を締めくくるはずだった同シリーズ。しかし、熱烈なファンによる続編製作を求める署名活動も奏功し、08年には再始動が本格的に決定した。羽住監督が最も難儀したのは、台本づくりだったという。
「どういうストーリーにしていくのか……。(伊藤演じる)仙崎大輔がいろんな困難を乗り越えてきたこともあり、ある程度のことでは動じないキャラクターになってしまった。とはいえ、全く動じないとスーパーマンみたいになってしまうし。その部分をどうしようというのが一番難しかったですね」
羽住監督を悩ませた仙崎のキャラクター設定。完結編では、恋人の環菜(加藤あい)と結婚し長男の大洋が誕生。父になったことで初めて死への恐怖を目の当たりにする。仙崎を演じる伊藤とは、デビュー作「デッサン」でチーフ助監督を務めていたときから13年近い付き合いになる。足かけ7年にわたりタッグを組んできた、いわば“相棒”について「『海猿』をやるにあたって、伊藤英明は欠かせない俳優ですね」と言い切る。
「『海猿』ができる俳優とできない俳優っていると思うんですよ。現場は過酷で水浸しだし、汚れていなくちゃならない。そういうことに耐えながら、体を鍛える必要もある。そういう意味でも頑張ってくれたなあ」。今後も仕事をともにしたいと考えているそうで、「次は全く違うテイストの作品がいいですね。『海猿』みたいな作品ならば、また『海猿』をやればいいわけですから(笑)」
撮了後から取りかかった3D公開に向けた取り組みも、9月14日に行われた完成披露試写会で無事に初披露された。467スクリーンのうち277スクリーンでの3D上映が実現。“泣ける3D”と位置づけているといい、「良い意味で、イベントムービーとしてすごく可能性を感じています。ただ、基本的にはストーリーありきだと思うので、3Dであることによって効果が増す部分はあったとしても、ずっと3Dであることを意識させてしまっては失敗だと思うんですよ。かといって、せっかく見に行ったのに、2Dと変わらないじゃんと思われても失敗ですし。見ていてストレスのない感じを出すために注力しましたね」
公開を待つばかりとなったが、国民的な人気を呼ぶほどまでに成長した同シリーズを「お客さんによって大きくしてもらった作品。限界だと思っていた、そのさらに先を皆で見ることができたのはお客さんが望んでくれたから」と総括する。だからこそ、内外から注がれる大きな期待からは目をそらすことなく、真正面から見据えている。
「今回の作品を撮ることそのものが勇気のいる決断だったし、ビジネスの部分で期待されている、越えなければいけない数字っていうのもあるわけで。そのなかで、やっぱりお客さんを裏切りたくないという気持ちが強いですね。『これなら続編はつくってほしくなかったよ』と言われるのが一番辛いですから。それでも、プレッシャーを感じる反面、『こんなバッターボックスはめったに来ないぞ』と思ったんですよ。外す可能性も高いわけですが、そこまで期待される映画ってなかなかない。『海猿』に関しては、正しいことをして正しい方向に進んでいる気がしますし、そもそも『海猿』に裏切られたことってないんですよね」