劇場公開日 2010年6月5日

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「伝染する気高さ。」孤高のメス 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5伝染する気高さ。

2010年6月28日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

楽しい

『告白』のあまりのインパクトにすっかり影が薄くなってしまった感がある本作だが(?)、この映画も素晴らしい出来だと思う。

驚かさせれたのは映画序盤での手術室内の描写。『手術』と聞くと、白塗りぴかぴかの手術室で冷静沈着な医師逹が淡々と作業をこなしている……そんなイメージが浮かぶ(あくまで僕のイメージ)。
だがここではまるきり違う。清潔に見えない手術室、医療器具をぞんざいに扱う看護士、手術ミスを犯しておきながら、それを棚に上げて部下に怒鳴り散らす手術医。
挙げ句の果ては医者が『処置の難しい患者はどうせ大学病院に送るから、手術もテキトーでいいのさ』みたいな事まで言い放つ始末だ。
これって実際より誇張して描いてるんだろうか。それとも……。
本当にこんな病院もあるかもしれないと思うと背筋が寒くなる。

だが主人公・当麻が満を持して登場すると雰囲気が一変。
彼の最初の手術シーンが圧巻だ。卓越した技術と医師としての気高い信念がビシバシ伝わり、背筋がぞくぞくするほどカッコイイ。
そして夏川結衣が手術中呟く「すみません」という言葉。この言葉に何故だか涙が出そうになった。いやまさか、眉をしかめるような手術シーンで涙ぐんでしまうとは。
この手術を皮切りに、彼の気高さが病院のスタッフにまで“伝染”してゆく姿は感動的だ。

映画の最大の立役者は堤真一だろう。医師としては完璧だが朴念仁な当麻先生を魅力たっぷりに演じ、手術シーンでの手捌きも見事。脇を固めるキャストも皆良い。
仕事への誇りを取り戻すに連れてどんどん輝きが増してゆく夏川結衣。
地位と名声を手に入れる事しか頭に無い最低野郎を憎々しげに演じる生瀬勝久。そして余貴美子。彼女が“先生”と呼ばれる理由が判明するシーンを観て、彼女の下した決断にも合点がいった気がする。

映画のスタイルは、時系列を入れ替えたり細かいカットを繋いだりなどの小細工は用いず、じっくりとキャラクターを描き、まっすぐに物語を紡ぐスタイル。
丁寧で実直。この映画の主人公のようだ。
手術という生死に関わるテーマを取り上げながら重苦しさは無く、それどころか思わず笑ってしまうようなユーモラスな場面も多い。物語の中弛みも感じさせず、2時間長の上映時間はあっという間だ。

『告白』の毒に当てられて人間不信になった人は、こっちでリハビリしてください(笑)。
人間の良心を描いた優しい映画。オススメです。

<2010/6/12鑑賞>

浮遊きびなご
浮遊きびなごさんのコメント
2010年6月28日

パッチさん、コメントありがとうございました!

映画の時代設定はバブル末期でしたが、「これからは地域医療こそが重要だ」という感じの台詞もありましたね。まさしく現在に通じるテーマです。

私事で何ですが、僕の祖父も診断の誤りで病気の治療が遅れて亡くなっております。診断の難しい病気だったし、正しく診断されていれば助かったかと聞かれると何とも言えませんが、
「もしこの映画みたいな先生がいれば」「地方の医療設備が充実していれば」とやっぱり鑑賞中に考えてしまいましたね。

こうあってほしい……残念ながら、今の世の中はその真逆の方向に進んでいるように思えますが。

浮遊きびなご
パッチさんのコメント
2010年6月28日

現在の医療問題にも問題提起しているいい作品だと思います。一人でもどうにかしようとすればそれに感化され変化していくこうあってほしい作品でした。

パッチ