「拝啓 敬愛なる寒竹ゆり監督殿」天使の恋 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
拝啓 敬愛なる寒竹ゆり監督殿
近作ではAKB48のドキュメンタリー作品を手掛けている寒竹ゆり監督が、当時人気絶頂のモデル、佐々木希を主演に迎えて描く恋愛物語。
援助交際、いじめ、自殺・・・心に傷を負った一人の美しい女子高生と、彼女に偶然出会ってしまった大学講師が繰り広げる、切ない愛の物語。携帯小説の鉄板ともいえる要素をしっかりと物語に散りばめ、観客の求めるストーリーを奇を衒うことなく作り込む。職人芸として大変に堅実なお仕事をされている。職人として、見事な手腕である。
さて、ここで本作のような現代に最も必要とされる作品を作ってくださった寒竹監督に敬意を込めて、メッセージを贈らせていただきたい。
拝啓
立春の候、いかがお過ごしでしょうか。
遅ればせながら、貴方様のデビュー作「天使の恋」拝見させていただきました。
異国での巨大地震、わが国の混迷する社会情勢、クーデターの連鎖・・。何かと心が痛み、日常の中において笑顔を忘れてしまいそうな今日。ここまで観客に爆発するほどの爽やかな笑いを提供していただき、心より感謝しております。
主人公、理央がストレスによる貧血で倒れられたとき、大学講師のいとこ様がお見舞いに来られていましたね。どこで、病院をお調べになられたのでしょうか。なぜ、パイナップルを切ってこられなかったのでしょうか。そして、何故理央が倒れたことを知っているのでしょうか。驚異的な心の繋がりで病院まで突き止めてしまう二人の愛。思わず、涙がこぼれました。
講師を演じられた谷原様も、大変に嬉しそうな笑顔を振りまいておられましたね。もう演技を超えて、心から歓喜を表出されており、胸が一杯になりました。見事な演出でございました。
苦しみと葛藤、痛みを乗り越えての自殺を敢えて用いず、突発的に一人の女性を学校の屋上から落とす。警備員も教師も誰も気が付かない。こんな画期的なシナリオは本当に驚かされました。物語の流れを完全に無視した眠気覚ましのイベントに、貴方様の意欲を感じます。
「映像無くても、言葉だけ聴いていても分かる」私の知人が音だけを聞いておっしゃっていました。言葉だけで情感も、切なさも、楽しさも全て分かってしまう脚本の妙。丁寧な熟考を思い、心が喜びで溢れます。
まだまだ伝えたいことは多々ありますが、貴方様の誠心誠意から生まれる極上の佳作、楽しませていただきました。佐々木様の熱のこもる、演技とは思えないリアルな舌打ちの上手さに心震えつつ、今は筆を置きたいと思います。
どうぞ、お体にお気をつけて。今後の善戦、心より期待いたします。
啓具