「記憶を共有する夫婦」スイートリトルライズ 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
記憶を共有する夫婦
江國香織による原作は、映画の公開前に読もうと思い購入。実際読み始めたのだが、半分読んだところでその面白さを見いだせずに、そのまま一週間程放置してしまった。
まだ時間が有るからと思っていたのだが、個人的な都合で急遽今日観る事になった理由も有るのだが…。
愛情は有るのに肉体関係は無い。近くに居ながら遠い存在の夫婦関係。
この奇妙な間柄を、中谷美紀と大森南朋が絶妙に演じている。
同じ屋根の下に住みながらも、携帯で連絡を取り合う等、普通に見たら異常な夫婦関係で有りながら、この2人の中では至極当然の様な居心地の良さに包まれている。しかし…。
一見何の変哲も無いお互いの不倫関係がこの後描かれて行く。すると、これまでの居心地の良さが少しずつ変わって来る。
それ自体は一般の人達と殆ど変わらないのだが、この夫婦に関して言えば、お互いの好み…例えば映画の中で描かれている事で言えば。妻は絶えず夫が今何を食べたいのかを(口には出さないが)考えている素振りが見える。互いに秘密を共有し始めると、何故だか食事の意見が(テレパシーを発信した様に)一致をしたりする。
不倫に溺れながらも、2人は共に“罪の意識”に苛まれている。
「体温が欲しかった…」と語る妻。
「怖い」と呟きながらも無邪気に笑う若い娘に対して、何も返事を返せない夫。
だからこそ記念日には極普通の夫婦の様に装ってはみたが、逆にしっくりと行かなくなってしまう。
電車に乗っての帰り道。2人の立ち位置には、永遠に交じ合わないこれまで以上の距離感が存在していた。
だから男の行動と独占欲に対して、夫にも言わない自分の本音と「愛してる」の一言を…。
一方、意を決して若い娘に会うが、結局その肉体に溺れる夫。
何も変わらない。変わろうとはしない。
その流れのまま行こうとする2人。
だが2人ともその罪の意識だけは共に有る。
事件を目撃した妻は、自宅に置いて有る大事な2体のテディベアに繋いで有る○を取り、新たな夫婦の門出に送る。
また、日課の散歩コースに居た犬の○。
夫に頼んで一緒に埋○してあげる。
その時の妻の《行為》を只じ〜っと見つめるだけの夫。彼は妻が好む“愛情表現”を率先して行う様になる。これまでだったら戸惑うだけだったのに…。
この時に犬の持ち主の昔の出来事を珈琲を飲みながら聞く妻。
傍らの写真の横から取り出す砂糖。その入れ物は一見すると…。
思い出すのは記念日の帰り道。遠くなってしまった夫婦の距離感。電車からほんの一瞬目撃した有る物を持つ人…。
何も変わらない2人だが、いつの日かどちらかの罪が明るみになった時…妻は《それ》を犬の持ち主から譲り受ける事だろう。
だって2人は…。
“記憶を共有したのだから”
(2010年3月14日 シネマライズ UP theater )