「救いがない、中途半端な作品」スペル(2009) 茂野翔さんの映画レビュー(感想・評価)
救いがない、中途半端な作品
◎ あらすじ
銀行員である主人公は、住宅ローンの支払いを滞納し続け、強制執行をくらった老婆への延滞(*既に2回認めている)を認めなかった。それが原因で、その婆に呪いをかけられてしまい、主人公の身に、次々と超常的不幸が降りかかる。
===
◎ 魅力的なポイント
① 話のテンポが良い
場面転換が丁度良い頃合いで起こるので、間延びしておらず、途中で飽きが来ない。
② 良くも悪くも、目を引く演出・内容が多い
・場面場面での臨場感は◎
・結末も予想を裏切られるものだった
===
◎ 鼻につくポイント
① 呪いをかけられた理由が理不尽すぎる
住宅ローンが払えず、差し押さえられるのは当然であり、また、銀行側は過去に二度、期限の延長を認めている。加えて、三度目の延滞を主人公が断った際も、代替案を複数提示していることから、常識的に考えれば、彼女の決定に瑕疵はないと言える。
呪いをかけた張本人である猿顔の老婆は、「私に恥をかかせた」と主張しているが、そもそも他の利用者がいる銀行内で、突如、大声で慈悲を懇願し始めた迷惑な客に対して、銀行員が警備員を呼んで対応するのは、職務上当然の行為である。また、面子を重視するのなら、「住宅ローンを滞納している」という恥ずべき事実を棚上げせずに、金を払うべきだ。
主人公が老婆の自宅を訪問した際に、多数の親族が見受けられたので、本人が働けないのならば、身内に助けを請うて然るべきである。
② 本作の世界では、司法が機能していない
諸悪の根源である害悪婆は、主人公の車に侵入し、帰路につくのを待ち伏せした上で、襲撃を仕掛けている。生き恥を晒すだけに収まらず、あまつさえ、犯罪にも手を染める精神異常者だが、逮捕された様子もない。
③ 主人公の頭が悪い・優柔不断すぎる
空想の世界を真っ向から否定するような指摘で大変忍びないが、なぜ主人公は素性の知れない外国人を信頼して、教会や民俗学の研究者などに助けを求めないのか?大学で教鞭を執る彼氏に相談できないと思い込む心理は理解できるが、"life or death"の状況下では、形振り構っていられないだろう。視野が狭くなるのは当然だが、流石に限度がある。
呪いの影響を緩和するために、動物を生贄にすることを提案された際に、「菜食主義者」だと言って、初め断りを入れたのを見て、救いようのない阿呆だと感じた。
占い師の助言があったとはいえ、ペットの子猫を生贄にしていて、更に混乱させられた。
呪いから逃れる最終手段として、他者にボタンを譲渡することを提案されたが、いざとなると、良心の呵責から(自身を謀った同僚相手でさえ)他人に呪いを押し付けることができず、紆余曲折を経て、死亡した。可哀そうだが、頭が悪すぎるので自業自得だろう。
④ 全体的に中途半端
全体的に納得のいく展開・結末ではなく、不愉快になるシーンも多かった。
例えば、心肺蘇生のために胸骨圧迫を施すシーンでは、右肩を圧迫している。加えて、10回程、"右肩"マッサージして、もう助からないと諦めている。くだらないオカルトに傾倒する前に、義務教育からやり直した方が良いのではないだろうか。それとも、そういうお笑い?命懸けでラミア(呪いの正体)と戦うことを、1万ドルで了承しているのも、あまりに安すぎて驚いた。結婚を控えている主人公に、その程度の貯金がないことも衝撃だった。
===
◎ 総評
場面ごとにメリハリがあれば良いと思うが、どういった表現をしたいのか、視聴者が意図を掴めない・混乱してしまうことが多い作品だった。呪いに文句を言うのは筋違いだが、自分が主人公の立場だったら、あまりの理不尽さにブチギレ間違いなしである。