「竹中主演で、本人監督作より遙にお腹の中から笑えます!でももう少し泣きのシーンがあったらいいのになぁ~」僕らのワンダフルデイズ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
竹中主演で、本人監督作より遙にお腹の中から笑えます!でももう少し泣きのシーンがあったらいいのになぁ~
全編笑いに包まれる愉快な作品でした。セリフが聞き取れないくらい笑いました。
でも話は末期ガンの患者が主人公となる、なかなかペーソスに満ちたストーリーなんです。けれどもそこはなんと言っても竹中直人が主演すると、末期ガンすら吹っ飛ぶ笑いが生まれてしまいます。とにかく同じ可笑しい作品でもシュールな『山形ストリーム』と比べて、段違いの面白さです。
竹中監督はもう少し、竹中直人の爪の垢を飲むくらいの気持ちをもったほうがいいかも知れませんね。どうしても自分が監督すると暴走が止められないのだと思います。
主役とは言え、役者として他人の作品に出演する場合は、演出者の抑制が効いて、ちょうどいい感じになったのでは?
竹中の場合、むしろ真剣にシリアスな演技をした方が、かえって可笑しくなるもんだと、本作を見ながら感じました。
とはいえ、竹中は久々の主演作で、画面からはみ出すくらい大暴れで、張り切っておりました。特に劇中組むオヤジバンドでは、ボーカルを担当していて、ノリノリ。明らかに他の出演者と比べて、テンションが違っていました。
このように、本作は竹中直人のらしさを、うまく引き出している作品です。ファンの人なら必見でしょう。
主人公の藤岡徹は、胆石の手術で入院中に、偶然にも主治医の「末期の胆のう癌。もって半年です。」という主治医のレクチャーを立ち聞きしてしまいます。
「男性、53歳」という患者のプロフィールだけで自分のことだと鵜呑みにしたから、さあ大変!主治医の話を盗み聞きしている徹が、余命半年と聞いたとき、目を剥いて愕然とする表情が可笑しかったです。
そして、退院許可も末期治療の為の帰宅と落ち込む徹。そんな彼とは対照的に、あけっらかんとしている家族達。家族は家族で、徹が入院したことで鬱になったものと思い込んでいたのです。
そして追い打ちをかけるように、家族には秘密がありました。
母と娘がなにやらこそこそ話し合い、式の日程というような言葉を漏れ聞こえると、あいつ等、もう葬式のことなんか話し合っているのかとますます落ち込む徹だったのです。 お父さんにショックを与えない話とは、娘の結婚が決まったことをどう伝えるかと言うことだったのです。日頃『怪物』と呼んでいた、娘の彼氏だっただけに、徹にとって、これはこれで相当に打撃を被る話ではあったのです。
家族と徹のズレズレぶりが本当に愉快でした。そして、徹は余りにピンピンしていて、絶対末期ガンじゃないだろうから、このあとどう家族にネタバレするのかが楽しみになりました。
でも徹の落ち込みようは半端ではなく、彼を元気づけるため久々に顔を合わせた高校時代のバンド仲間は、当初のりきでなかったバンドの再結成の乗り出すことになりました。 このシーンでは、竹中の演技が真に迫って、落ち込んでいるからこそ、シーラカンスの再結成に説得力が、出てきたと言えます。
バンド仲間で、一番意外なのは、広告代理店で営業部長をしている山本。冷徹で笑いも見せない仕事人間の彼が、徹のガンの告白を聞いたとき、すんなりリードギターを引き受けたのが、意外でした。
また、ドラムは海外在住の旧メンバーに変わり、メンバーのツテで参加したのが日暮さん。彼は親の資産を受け継いだお金持ち。そのため親から受け継いだ家訓を座右の言葉としています。病気を気にする徹と資金繰りで悩む渡辺に対して、ポーカーフェイスで『お金は人間と一緒でもむ歩く楽しい方へ集まる。辛ときほど笑っていないと、幸せが逃げていく。』とぼそぼそとささやくところが可笑しかったです。なお、この役は22年ぶりに稲垣純一が俳優復帰して演じています。どうりでドラムが上手いわけです。
復活したシーラカンスは、「全国ナイスミドル音楽祭」優勝に向けて、関東大会突破に向けた練習に励みます。途中、練習会場を提供したお寺の住職や、練習レベルの違いで仲間内で喧嘩になることはあったけれど、割とすんなりバンド結成は成功してしまいます。
関東大会でのアクシデントも含めて。もう少しインパクトのある波乱要因があってもすかったのではないでしょうか。
ただバント活動を通じて、メンバーの表情が溌剌としていき、生き方をも変えていくところは、よかったです。
特に、コミュニケーションが断絶していた、山本の親子関係が変わっていくところは、ホロリとさせます。
ストーリーが、展開するところは、バンド練習中にあるメンバーが倒れます。メンバーが見舞いに行くと、徹はびっくり。同じ主治医ではありませんか。そして、その元クラスメートも、「末期の胆のう癌で。もって半年」だったのです。
この男の病と闘いながら。最後の力を振り絞ってバンドに打ち込む姿を期待しましたが、あまり描かれませんでした。もちろん家族と語らうところは、感動的。そして徹が自身に語り聞かせて、バンド活動を決意した「音は死んでも残る」という言葉を、この男も心の支えにして、バンド活動を頑張ったと打ち明けたとき徹が号泣するシーンもよかったです。全体的に、笑うシーンばかりでなく、もう少し泣きのシーンもあったら、感動が深まったのではないかと思います。
でも、最後の娘の結婚シーンは蛇足だと思います。バンドコンテスト大会出場で締めるべきでした。また女優になった徹と山本のかつてマドンナ真帆のことももう少し描いて欲しかったですね。
人生いくつになっても夢があります。人生の節目に、もう一度夢に向かって生きられたら、どんなに素晴らしい日々(ワンダフルデイズ)をおくれることでしょうか。
皆さんも、本作をご覧になって、忘れかけていた夢を思い出し、チャレンジされてください。