「殺人犯へ復習する父親像」さまよう刃(2009) 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
殺人犯へ復習する父親像
2009年。監督:益子昌一
愛する人を無惨に殺された家族は、殆どの人が出来ることなら、
我が手で復讐したいと願うと思います。
この映画は犯人を殺す・・・それを実行する映画でした。
(ふつう我々は法を犯してまで復讐を実行する、捨て身の勇気を持てません。
ある意味父親は私たちの願望を果たしてくれた人です。
東野圭吾の原作は未読ですが、原作との違いに触れているレビューの殆どが、
原作の深さに及ばない、内容・設定に変更が多い・・・と書かれています。
映画を観たとき、私が一番に感じたのは、娘を惨殺された父親(寺尾聰)の台詞の少なさでした。
スタートから25分。寺尾の言葉は皆無です。
そして犯人の部屋で娘を惨殺した犯行を撮影したVHSテープを再生して観たときの
父親の悲しみ。
嘔吐し、身を震わせ、慟哭する。
監督は台詞を極端に削ぐことで父親の胸の内を、台詞では無く身体で表現することに
心を注いだようです。
そして長野県の雪景色。
雪景色と雪をいただく山々、青空に映える雪原。
それは画面いっぱいに広がり、父親の鬱屈そしてどうしようもない悲しみに
寄り添うようでした。
唯一心が晴れるのが、長野県の風景でしたね。
そして父親はもう一人の犯人を追って、逃亡犯の身の上になり、
殺されることを察知した犯人は逃亡を企てます。
長野のペンションを経営する娘と父親が、印象的な役目をするのですが、
父親(山谷初男)が、逃亡犯に猟銃を押し付けて渡すシーンは、やはり変でしたね。
若い刑事(竹野内豊)が言います。
《法は市民を守るのではなく、犯人を守るのか!》
たとえ犯人が死刑になろうとも被害者に安らぎはありません。
そしてもう一人の犯人への復讐・・・
ここは予想通り(と、言うか、)、常識の範囲内でしかも道義的にも納得できる結末でした。
若い刑事を演じた竹野内豊が22年後に、今度は父親役を演じたWOWWOWのドラマでは、
果たしてどんな結末を用意されているのでしょう?