「TOKYOより愛をこめて。 スピンオフであればまだ許せるが、正統続編でこれはちょっと…🌀」カーズ2 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
TOKYOより愛をこめて。 スピンオフであればまだ許せるが、正統続編でこれはちょっと…🌀
自動車が生き物のように暮らす世界を舞台にしたレース・アドベンチャー映画『カーズ』シリーズの第2作。
前作から数年。ピストン・カップで4連覇を果たしたマックィーンの下に、世界を股にかけて開催されるワールド・グランプリへの参加権が届く。イタリア代表のF1カー、フランチェスコの挑発に乗ったマックィーンは親友メーターをはじめとする仲間たちと共に初戦の舞台であるトーキョーへと向かうのだが、そのレースにはある陰謀が隠されていた…。
監督はジョン・ラセター。
○キャスト
ライトニング・マックィーン…オーウェン・ウィルソン。
英国の凄腕スパイ、フィン・マックミサイルを演じるのは『ダークナイト』シリーズや『インセプション』の、レジェンド俳優サー・マイケル・ケイン,CBE。
ピクサーのドン、ジョン・ラセターのお気に入り『カーズ』シリーズ(2006-)。
かつてピクサーには『トイ・ストーリー』(1995-)以外は続編を作らないという鉄の掟があった…かどうかは知らんが、安易な続編商法は拒んでいた。
本作はその初の例外であり、これを嚆矢に『モンスターズ・インク』(2001)や『ファインディング・ニモ』(2003)、『Mr.インクレディブル』(2004)といった人気作品のシリーズ化が開始された。本作により、ピクサー映画のフランチャイズ化という地獄の釜が開いてしまったのである…。
ぶっちゃけ『カーズ』はラセターの私物であり、この映画も彼がやりたい事を実現する為だけに撮られたという感がある。
それはすなわち、①『カーズ』の世界を舞台にしたスパイ映画を撮りたい②マックィーンとメーターに世界旅行をさせたい③マックィーンとF1カーを戦わせたい、の3点である。
まぁ②と③は分からんでもない。前作よりもさらに広い舞台とさらに強いライバルを用意するというのは(それが良いか悪いかは別として)続編映画を作る時の鉄板なのだから。
問題は①。「続編を作るのなら前回と同じ事をやっても意味がない」とはラセター監督の言だが、おまっジャンルまで変わってんじゃねーかっ!!
前作は上昇志向とエリート主義に凝り固まったイケすかない若者が田舎暮らしを体験することにより優しさや思いやりに目覚めるというヒューマン(カーマン?)ドラマだったが、今作にその様な要素はカケラも残っていない。主人公は相棒のメーターにチェンジし、彼が悪の組織の陰謀を食い止める為に世界中を駆け回るというスパイストーリーが展開される。
…あのさぁ。そりゃ『1』とおんなじ事をやられても困るけど、だからと言って全然全く根底から違うものをお出しされてもどういう顔をしたらいいのかわからん。主人公もジャンルも違ったら、それはもう別の映画なのよ。
『カーズ』シリーズには『1』と『2』の間に、『メーターの世界つくり話』(2008-2012)という短編アニメシリーズがある。まぁこれは未見なんだけど、タイトルから予想するにメーターが世界を駆け回るホラ話が描かれているんだろう。本作は明らかにその流れを汲んだ映画であり、実はこれ『カーズ2』ではなく『メーターの世界つくり話 ザ・ムービー』なんだと思う。
最初からスピンオフである事を明言していれば、どれだけジャンルが変わってもすんなりと受け入れる事が出来る。ただ、実像は異なるとはいえこれは正当なナンバリングタイトル作品。それなら前作の物語との連続性がある程度担保されていなければならないと思うのだけど…。
ジャンルが変わってしまった事への不満は置いておいても、今作の内容は酷い。本当にピクサーが作ったのか疑いたくなるレベルでお話が終わっている。
今作の敵役は「ペッパー」という故障車軍団。不良品のレッテルを貼られ、蔑まれてきた彼らが世間に対して復讐を企てるというストーリーには納得感がある。マックィーンたちスーパーカーには特に憤懣やる方ない感情を抱いているのだろうし、ポンコツ車であるメーターがその間に立って問題に対処するというのも、普通に上手い設定だと思う。
…なのに、この映画ではその設定が全く活かされていない。ペッパーは現実に置き換えれば身体障害者。人々から差別された結果悪の道に落ちてしまった彼らは、ただの傲慢な悪役として描いて良い存在ではない。だって本当の“悪“はそんな彼らを見捨てた世界なんだもん。
しかし、本作でのペッパーはただのステレオタイプの悪者。世界最大の油田を見つけたからそれで大儲けじゃワッハッハ…って、そんな単純な動機でお前ら本当にいいのか!?もっと世界中のスーパーカーを廃車にしてやるとか、そういう壮大な計画を企ててくれよっ!
解決方法も安易で、ただ敵のボスを懲らしめて終わり。いやこれ悪者1人を捕まえれば済むとかそういう話じゃないんじゃ…。
敵の黒幕は誰だ!?というミステリー要素で物語を最後まで引っ張るのだが、そこにも違和感。だって容疑者1人しかいないんだから、そりゃそいつが犯人だろっ!!これじゃ子供も騙せねーぞ😠
そもそも、この黒幕の行動にも全く納得がいかない。回りくどくやりすぎて、結局何がしたかったのかよくわかんねーぞコラっ!!
一応エコロジーの問題に言及したかったのだろうが、結局代替燃料や電気自動車の良さをアピールする事にも、石油燃料からの脱却を訴える事にも失敗しており、全く骨のない空虚なメッセージだけが宙にぷかぷかと浮いている。
ぶっちゃけカーキチのラセターが「ガソリン自動車なんてけしからん!!」なんて本心から思ってる訳ないんだから、だったらそこに下手に首を突っ込むなと私は言いたい!
ペッパーの陰謀を阻止する事を縦軸に、マックィーンとメーターの友情を横軸にして映画は構成されている。…が、その割に今回のマックィーンは完全に脇役。彼は最後まで事件の全容とは関係ないままで、ハッキリ言って居ても居なくてもそこまで映画に関係ない。
その為、ワールド・グランプリというレース自体にもほとんど意味がなく、ただの賑やかしにしかなっていないというのも不満点のひとつである。スパイ映画にするのかレース映画にするのか、ハッキリしろタココラコラタコッ!!
何故作ったのか首を傾げたくなる、完全なる蛇足。…いや、なぜ作ったのかは明白で、それはもちろん儲かるから。
『カーズ』シリーズは興行収入自体はぼちぼちなのだが、とにかくグッズの売り上げがヤバい。『1』が公開された2006年から『2』が公開された2011年までの6年間で、100億ドルを超える売り上げを叩き出した正に金のなる車なのだ。
ラセターは優秀なクリエイターだが、同時にディズニー/ピクサー両スタジオの最高責任者、つまりビジネスマンでもあった。純真そうな見た目をして、このオヤジはなかなかの食わせ物。本作も純粋な創作意欲に突き動かされたというよりは経営的な判断で作られた一作であると考えて間違いないだろう。そんなもんが面白い映画になる訳ねーだろっ!!😡💢
これを最後にラセターは映画監督からは退き、プロデューサーに専念する様になる。色々あってディズニーから追い出された後は、スカイダンス・アニメーションの責任者に就任。今なお精力的に作品をプロデュースし続けている。
本人はもう監督にカムバックするつもりは無いのだろうが、こんなヘッポコ映画が引退作になって良いのか?かつてのピクサーファンとして、ラセターには映画監督として『トイ・ストーリー』(1995)の様な素晴らしい作品を生み出して欲しいと思っている。