「ただのSF映画ではない!」インセプション 凛々さんの映画レビュー(感想・評価)
ただのSF映画ではない!
この映画を見終わった時久々の新鮮味を感じた。何度でも観たくなる。夢の中の世界と言うと一見ありきたりに思えてしまうかもしれない。しかしそこはあのダークナイトを作り上げた監督。先ず設定から抜かりがない。綿密に考えられており、夢の中の夢更にはその中における時間の流れ方の違い、そして現実との境界線の曖昧さ、冒頭から一気に引き込まれてしまった。アクションシーンも研ぎ澄まされており、特にカフェテリアでのあらゆる物が破裂していくシーンは忘れられない。劇中で流れる音楽もとても映画にマッチしており、そのお陰か躍動感溢れる作品に仕上がっているように思われる。所でこの映画はアクションを売りにしているがそれだけではこの映画をここまでの作品にすることは出来なかっただろう。ではこの作品を支えた影の立役者は何か?それは脚本の中のドラマであると思われる。主人公が抱えている葛藤や苦悩と言ったものを他のSFものよりもより丁寧に描いたからこそ観るものは共感し、更にはそれがアクションシーンのスパイスにもなっていたように思われる。実にクリストファー・ノーラン監督らしいと感じた。アクションとドラマの両立が非常に上手いのである。最後のシーンを見れば分かるのだが、ダークナイトでもそうであったようにノーラン監督は映画の最後を派手なアクションで飾るのではなくドラマの帰結によって終わらせている。ダークナイトの場合バットマンはジョーカーとの戦いを遂に終わらせる。しかしジョーカーが変えてしまったアーロン・エッカート扮するハービー が彼の前に立ち塞がる。まるで白から黒に塗り替えられたような人物に為ってしまったハービー。悲しみのあまり悪人に堕ちてしまった彼をバットマンは倒すのだが、そこにはアクション的な要素はあまり無い。寧ろそこにはドラマ的な感情のアクションが描かれている。果たして彼は本当にジョーカーに勝てたのだろうか?いや、実際のところジョーカーに負けてしまったのだ。だからこそ彼はハービーの罪を背負うことにしたのだ。そう決めたバットマンが走り去って行くシーンで映画は幕を閉じる。インセプションでも派手なシーンで終わらせるのではなく、やはりドラマに重点を置いている。主人公のコブが抱える葛藤が解消される事によって本当の意味で彼は現実の世界に戻る。そして念願だった子供達との再会を果たす。しかしその前に彼は自分のトーテムを回し、トーテムが止まるか止まらないかと言うところで映画は終わる。これによって結末はとても曖昧なものになり、ハッピーエンドにも見えれば、悲しみを含んだ結末にも見える。だがその曖昧さが良いのだ。ノーラン監督らしい終わらせ方である。設定が綿密が故に多少理解するのが難しいしかもしれないが、色々な人に見て欲しい。決して見て損はない。これはSF映画ではあるが、ただのSFものではない。ドラマ映画でもあるのだ。それをこの映画を見て是非実感して欲しいと私は思う。