PUSH 光と闇の能力者 : 映画評論・批評
2009年11月10日更新
2009年11月7日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
スケール感より臨場感を重んじた香港でのサイキック・バトルは新味たっぷり
まるでシリーズものの1作目を吹っ飛ばし、いきなり第2作から観せられたような錯覚に陥る奇妙な作品だ。ここで描かれる超能力者たちは謎の政府機関に育成され、ケネディ暗殺などの大事件に関わってきたという設定。にもかかわらず本作はそうした歴史的な背景を省略し、いきなり“第2世代”の若者たちを主人公にした物語を語り出す。なぜか香港が舞台という点も唐突感に拍車をかけ、さらにムーブ(念動力)、ディビジョン(悪の秘密組織の名前)といったカタカナ用語がポンポン飛び交うため、話に入り込むのに大いに手間取った。
しかし、この映画には捨てがたい魅力がある。香港の雑踏や中華飯店などで所構わず炸裂するサイキック・バトルを、CGよりもワイヤーや生身のスタントを積極活用して映像化。いたずらにスケール感の大きさを狙わず、こぢんまりとした空間のサイズに見合ったアクションを追求したことで、臨場感のこもった濃密な見せ場が生まれた。カジュアルな衣装や現実味のあるセットもサイキックSFらしからぬ“ストリート感覚”の醸造に貢献し、「X−MEN」やTVシリーズ「HEROES」とはまったく肌触りの違う快作となった。
ポール・マクギガン監督の演出はスタイリッシュだが技巧に溺れず、窮地に陥った登場人物が髪を乱して逃げ回り、汗だくになって闘う泥臭さもきっちりと表現している。すっかり大人っぽくなったダコタ“生意気”ファニングと、クライマックスに向かうにつれてぐんぐん衰弱していくカミーラ・ベルというダブル・ヒロインのユニークな描かれ方も男性観客にはお楽しみだ。
(高橋諭治)