劇場公開日 2009年9月26日

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「艶めかしく神々しい」空気人形 かみぃさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0艶めかしく神々しい

2009年10月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

自ブログより抜粋で。
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 華やかな都会のイメージからはほど遠い、どこか時の流れから取り残されたような東京の下町をたゆたうように切り取った美しい映像と、ペ・ドゥナの圧倒的な魅力が目に焼き付くラブ・ファンタジー映画の傑作。
 「ラブ・ファンタジー」と言ってしまうと、かわいらしいペ・ドゥナのメイド服姿からも、ほんわかとした楽しいメルヘン映画を想像してしまうだろうが、内容的にはもっとずっと辛辣。
 また、映倫の「R15+」指定が物語るように、生々しい性描写も少なくない。
 寂しくも哀しい、現代を生きる人々に巣くう孤独と喪失感に胸を締め付けられる、まさに大人のための“毒”のある寓話だ。

 しかしそれでも、この映画にはどこか心安らぐ優しい空気が漂い、満たされることのないこの世界にも「キレイ」はあると実感させる不思議な力がみなぎっている。
 それは有形無形問わず、人々が関わり合いながら生活する、普遍的な人の営みを肯定的に捉えようとする、あたたかい視線がそう感じさせるのだろう。

 すべてをさらけ出した熱演で心を持ってしまった空気人形役に挑んだペ・ドゥナがとにかく素晴らしい。
 ビニール製の空っぽの身体、そこに宿った赤ん坊のように純粋無垢な心。
 彼女の一挙手一投足は人形そのものなのに、ほかのどの登場人物よりも表情豊か。
 一見孤独感に埋め尽くされたかのようなこの世界が、そのガラスのような大きな瞳には、いかに「キレイ」に見えているかを体現していて感動的だ。

 幼子のように興味津々で街を歩くぎこちない仕草に始まって、恋にときめく笑顔、初めての恥じらい、愛する人とともにいる喜び、悲哀、迷い、とまどい、切なさ、と、めまぐるしく変わるその表情は、まるで幼女から少女、少女から大人の女性へと成長する人生の縮図を見ているかのようでもある。
 ことに、ひょんな事故で空気の抜けた身体に好きな相手から息を吹き込まれたときの彼女の恍惚とした表情が絶品で、かくも艶めかしく神々しい。

 それは言うまでもなくメタファーとしてのセックスなんだが、恥じらいの中に浮かび上がるエロティシズムと同時に、愛される女性の悦びをこれほどまでに大胆且つ美しく見せた女優をほかに知らない。
 気合いの入った演出も相まって、不完全な本当の姿を見られたとまどい、スカートを捲し上げられる恥じらい、瀕死の状態から救われる安堵、愛する相手から満たされる悦び、それらの感情が渾然一体となってほとばしるこのシーンは、映画史上屈指の甘美な名シーンとして語り継がれるだろう。

かみぃ