「銃なき戦士に、祝福を」パリ20区、僕たちのクラス ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
銃なき戦士に、祝福を
フランス映画復興の切り札と目されているローラン・カンテ監督が、自国のベストセラーを題材にして描く、ドキュメンタリータッチの青春映画。
本作を、「金八先生」や、「スクールウォーズ」のように熱血、かつ生徒への深い、深い愛情をもった教師と、生徒達の衝突と、熱い繋がりを描く作品と考えてはいけない。
生徒、親、同僚の教師という様々な人間関係の中で一人、孤軍奮闘している教師の姿を主観に置いて作られる物語は、さながら銃弾が乱れ飛ぶ戦場で、武器を持たずに被弾を避け続ける戦士の姿が見えてくる。
冷静に、丁寧に生徒と国語教師、フランソワのやり取りを追いかけていく。しかし、この物語は単純に毎日のありふれた会話を重ねて、何となくやり過ごしていく学園生活を郷愁を持って見つめるノスタルジックな雰囲気はない。
むしろ、日々の討論、疑問、小さな衝突を堅実に積み重ねていくことで、徐々に、かつ確実に熱を帯びていく沸騰、緊張感が画面全体を覆っていく。近年のフランス映画に顕著である、曖昧な要素から観客の想像力に委ねていく作り方とは一線と画した、明確な主張と躍動感。心が追い詰められていく最前線に突き進む戦争映画の恐怖心に似た高揚感すら滲み出す。
それでも、作り手は教育という、答えと道筋のない戦いに絶望している訳ではない。仲違いと、食い違いを容赦なく描きながらも、生徒達が時折浮かべる笑顔は、底抜けに明るく、観客も気持ちが穏やかになる。絶対的な教師と生徒間の協力関係をさり気なく否定しつつ、一瞬の信頼を信じて生徒を肯定的に描く。何かと難しい現代の教育界に対して、的確なアプローチだ。
終盤、教師と生徒が一緒にサッカーに興じる場面がある。ここに、作り手の教育への希望が垣間見えてくる。「共存」という揺れ続ける答えという名のボールを、相手を信じ、パスし、奪い、一つのゴールへ導く。たとえ、卒業までにゴールに着かなくても、いい。共に、探していくのが答えだ。
銃なき現代教師たちの迷いと戦いに、心からの応援と祝福を送りたくなる、極めて豊かな示唆と愛情に満ち溢れた物語である。