「劇中劇も面白い!」抱擁のかけら kerakutenさんの映画レビュー(感想・評価)
劇中劇も面白い!
ある実業家の死を知り、明らかに動揺する盲目の脚本家。
よくあるミステリーの導入部と思いましたが・・・
彼の妻みたいな女性が仕事のパートナーで
彼の世話をしてくれる青年が、その女性の息子だったり
すこしづつ彼の人間関係が分かってくるのですが、
亡くなった実業家の息子が「姿を変えて!」訪ねてきたことから
彼が触れるのを拒んでいた14年前の出来事がよみがえります。
2008年の現在と1994年の時間軸をいったりきたりしながら
ストーリーは進みます。
14年前(まだ失明しておらず)映像作家だったマテオは
初のコメディ「謎の鞄と女たち」を撮っていたのだけれど
その主役の女性レナ(これがペネロペ!!)と恋に落ちるのですが、
彼女は実業家エルネストの愛人だったのです・・・・
ということがわかるのはずいぶん話が進んでからで、
ほんとに時間をかけて、少しずつ状況がつかめてくるのです。
美人女優と監督が恋愛関係で、しかも彼女はスポンサーの女・・・
なんて、いかにも実際もありそうですね。
ペネロペは、今回は女優役なので、いろんなコスプレをやってくれて、
どれも最高に美しい!
清楚な秘書も、アクセサリージャラジャラのドレスも、
キュートなポニーテールも、モンローみたいなウィッグもどれも素敵!
服を着てると華奢なのに、脱ぐと豊満、というのは
どういう体の仕組みになってるのでしょう??
「魔性の女」は関わった男性を一律、不幸にします。
セックス1回あたりいくらにつくんだぁ~
と思うくらいコストパフォーマンス低いです。
なのに、彼女に夢中になった男たちは我をわすれちゃうんだよねぇ~
一方、妻かと思うくらいマテオ(ハリー)を熟知している
有能な制作マネージャーのジュディット。
ビジュアルでは比べようもないけれど、このふたりの対比が私には面白かったです。
登場する二人の青年
1人はエルネストJr。
無節操で圧力的な権力者の父が存命中はホモで虚弱な息子だったのだけれど、
その財産を受け継ぎ、自ら監督となって父の記憶に復讐しようとしています。
もうひとりの青年はジュディットの息子ディエゴ。
彼も喘息もちの虚弱児だったのだけれど、
愛されて成長した明るい青年です。
そして、最大の強烈キャラはなんといってもエルネスト。
紳士的で太っ腹なパトロンと思いきや、
レナとマテオの仲を疑うようになってからは
息子に四六時中ビデオで監視させ、
聞き取れない音声は読唇術で解明する徹底ぶり。
決定的なひとことは、ビデオ画面に向かって
レナが「セルフアフレコ」するんですよ!
この演出はゾクゾクっとしました。
この作品は、あちこち、制作側の視点で書かれている部分があって、
それが逆に私には興味深かったです。
芸術を理解しないスポンサーの要求・・
プレミア上映のいやがらせ・・
NGカットをつないで台無しにした作品を
素材を編集しなおして良い作品に蘇らせる・・
「映像作家が光を失う」という残酷さ・・
そして、一番面白いと思ったのが
この作品のなかで進行する「劇中劇」
レナが主演の「謎の鞄と女たち」は、かなり面白そうです。
それ以外にも、現在パートのハリーは脚本家なので
いつもネタをさがしているのですが、
彼が書こうとしていた
「アーサー・ミラーとダウン症の息子との再会」
という題材も気になります。
映画製作に興味を持っているディエゴが書こうとしている
「献血センターのバンパイヤもの」
も映画にしてほしいなあ~
ただ完成したものを観ているだけの私なんかには気付かなくても
映画製作に携わったことのある人だったら
きっと「見どころ」満載なのじゃないかと思いました。
ところで、どの映画紹介にも「究極の愛の物語」と書いてあるのですが、
私にはペネロペをめぐる二人の男に関しては
「愛」なんて思いたくなかったな。
ただのスケベ親父の狂った性欲としか思えませんでしたよ。
あ、それが「究極の愛」なんでしょうかね??
あえて集約するなら、
「古い自分を葬る再生の物語」として
すごく作り込んだ作品だと思いました。