「すごくいい映画だったのに…」SR サイタマノラッパー s'il vous plaît!さんの映画レビュー(感想・評価)
すごくいい映画だったのに…
この映画の最大の魅力はイックとトムのキャラクター性の素晴らしさにあることは間違いないでしょう。二人とも外見や言動で表面的にラッパーを気取ることによって虚勢をはり、自分を大きく見せようとしていますが肝心の内面は空っぽもいいところ。女にはモテないし意気地はないし、喧嘩も弱くておまけにニート。この外ヅラと内面の痛々しいアンバランスが二人をしてある人にとっては感情移入しやすく、ある人にとっては笑えるキャラクターたらしめていたように思います。ヒップホップに対する態度にも彼らのキャラクター性は反映されています。彼らはけっして自分たちの日常を歌詞にすることはありません。代わりに「なんかスケールの大きそうな感じのする」政治や国際問題の、雰囲気だけをなぞったような歌詞ばかり作った挙げ句、俺たちのヒップホップで世界を変えるんだと戯言をぬかす。端的に言えばヒップホップという魅力的な(ここに異論をとなえる人もいるかもしれませんが、ここではひとまず魅力的ということにしておきましょう、少なくともイックとトムはそう思っているわけですし……)アイコンに寄りかかってダサくて、空疎な自分たちの日常から逃避しているのがイックとトムだといってよいと思います。
お話はラストシーンの前までは一本調子に淡々と進んでいきます。イックとトムはそのダメさ故に家族からも、AV女優からも、「SHO-GUNG」の仲間からも「雑魚キャラ」の烙印を捺され続けるわけです。ラストシーンまでのこの映画の出来は完璧でした。上述の2人にブロ畑(実弾)の息子マイティーを加えた3人組は、中身はしょうもないのにラッパーとして格好つけているというギャップをうまく笑いに転換していたので、結構笑えました。(特に市役所で大人達のローテンションなつるし上げに完全に意気消沈するシーンは最高)その一方で彼らの痛々しさは女にモテず、友達も少なく、いつもクヨクヨしてばかりいる自分の反映のようにも見えて彼らのダメさに共感できる部分も多々あったわけです。
そしていよいよラストシーン。多くのレビューで称賛を受けていた場面ですが、結論から言えば僕はイックの勇気に胸を打たれることも、彼のラップに自分の人生を重ね合わせることも一切できませんでした。何故か。それはズバリ
「オヤジ達うるせーーーー!」と思っちゃったからです。イックの命がけのライムを茶化すトムのバイト先のおっちゃんたちがものすごいノイズになってしまって、イックが痛々しい存在にしか見えなくなってしまった……。果たしてあのオヤジ達は必要だったのでしょうか。そしてあんな凄まじいノイズの中でも純粋にイックのラップに集中できた人たち(≒ラストシーンを大絶賛している人たち)はなんてたくましい人間なんだろう。そんなしょうもない考えしか浮かんでこないほどに肩すかしを食らったラストシーンでした。
オッサン達、僕の感動を返して下さい (`ヘ´)