劇場公開日 2009年8月1日

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ポー川のひかり : 映画評論・批評

2009年7月21日更新

2009年8月1日より岩波ホールにてロードショー

触れ合うことの官能性をせつないまでに慈しむ、愛の寓話

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ヨーロッパ最古のボローニャ大学の図書館で、大量の古文書が太い釘で床に貫かれるという事件が起きる。容疑者はすぐに、若い気鋭の哲学教授であることが判明する。彼は車を乗り捨て、ポー川の岸辺にある陋屋で隠者のような生活を始める。いつしか、周囲の古老たちは、彼を<キリストさま>と呼び始め、ワインを片手に親密な交流が生まれる。

何度もリフレインされる書物の<磔刑>を思わせる光景が衝撃的だ。それを<虐殺>と叫ぶ老司教と教授の問答から、書物に象徴される人類の叡智がもはや本源的な救済とはなりえぬこと。さらに、現在の世界を覆い尽す未曾有の経済危機や、宗教対立から生じた終末的なビジョンへの異議申し立てというメッセージが声高に謳われているかにも見える。だが、果たしてそうか。

教授がインドの女学生の手に触れながら「愛撫することに真実がある。あらゆる本のなかよりも」と呟くのが印象的だが、この映画は、画面いっぱいに広がる大気や植物のむせかえるような匂い、木漏れ陽の眩い美しさに、全身で反応することこそが大切なのではないか。夕闇迫る中、ポー川を船が通り過ぎていく。そこだけ夢のような明るさに満ちた船上で、踊っているカップルが見える。「フェリーニのアマルコルド」で霧の中から大型豪華客船が現れる感動的なシーンが思い出される。巨匠オルミは、苛烈な信仰批判という積年の主題に執着しながらも、触れ合うことの官能性をせつないまでに慈しむ、愛の寓話を紡ぎあげたのである。

高崎俊夫

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