カティンの森のレビュー・感想・評価
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ワイダ監督の手腕
ソ連による、1万人以上のポーランド将校の大量虐殺を、残された遺品や日記からその真実に迫っていくことになる遺族たちの視点で描く。戦中、戦後を問わず、ポーランド国民が、大国のプロパガンダから自由ではあり得なかったこと、その状況下でもなお、民族としての自由を追求して止まない人々がいたことも同時に描かれている。
20世紀の戦争に、他の時代とは異なる特有の狂気があるとすれば、ラストの、将校たちが一名ずつ射殺されて、大きな墓穴に大量に放り込まれていくシーンに象徴されるだろう。はじめは、一名ずつ密室で殺害し、遺体を墓穴まで運ぶのだが、この「作業」が果てしないと気づくや、ソ連軍は、ポーランド将校に目隠しをして直接墓穴の前まで歩かせて、そこで射殺する方法へと変更するのだ。最後には、目隠しもなく、銃声を抑える措置もとらなくなり、順番を待つ将校たちは自分たちの運命を知ることになる。殺人の効率化という狂気が、ここには描かれている。
捕虜収容所内での俯瞰のショットを、クレーンでカメラを持ち上げて撮影しているシーンが、彼らの息も詰まりそうな不穏な運命を暗示している。事件を知る観客は、目を背けたくなるようなラストが予見できるのだが、人物のクロースアップ、クレーンを使用したショットなど、魅力的で多彩な映像表現で、最後まで一気に観させてしまう。告発する以上に、歴史上の事件に耳目を集めることの方が難しい今の時代への挑戦が成功している。ワイダ監督の手腕であろう。
大国に蹂躙された小国の叫び
総合75点 ( ストーリー:75点|キャスト:80点|演出:85点|ビジュアル:75点|音楽:65点 )
残虐に大量殺戮された将校とその家族を描くこの作品は、決して観て楽しめるといった類の映画ではない。だが歴史的に有名なこの事件を伝えたいという強い思いが感じ取れる。二つの大国に挟まれて、その勝手な思惑のままに蹂躙された小国の苦悶の叫びが、事件から数十年を経て地底から響いてくるようだ。
また常に張りつめた冷ややかな空気と恐怖感がある演出力は相当なもので、当時の社会と家族の感じた重々しさが肌にまとわりつく。物語は虐殺を正面から描くのではなくて残された市井の家族のほうから始まるという異色作である。抵抗するまもなく短期間に一方的に殺された将校を作品の中で長い時間をかけて追いかけ続けるよりも、真実を知るまでの家族の長い生活と政治的弾圧と嘘を描いて徐々に全貌を解明していくというのは構成として悪くない。緊迫感の下で静かに進む物語が一気に動く最後も衝撃。ただし虐殺の政治的背景についてはもう少し説明してほしかった。
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