「鶴瓶はすごい」おとうと kerakutenさんの映画レビュー(感想・評価)
鶴瓶はすごい
国民映画「寅さんシリーズ」ファンでサユリスト世代だったら
すんなり受け入れられるのでしょうが、
この姉弟をどういうスタンスで観たらいいのか・・・
前半は、けっこう観客を戸惑わせる映画でした。
冒頭で、小春(蒼井優)のナレーションで、この姉弟の経歴を楽しげに紹介。
それによると、吟子は1970年に大阪の薬科大学に入学、
ということは1952年生まれの(平成21年換算)57歳。
小春はタイガース優勝時にはすでに応援してたから、
1980年くらいに生まれて、今年で29歳くらい?
今年の設定とは限らないので、もう少しずつ若いのでしょうが、
いずれにせよ、吉永小百合の実年齢より若い。
でも「北の零年」や「母べえ」にくらべたら歳相応で、
薬剤師という職業も白衣姿も似合っていました。
ありえないくらいの優等生発言も
60歳過ぎてこの美しさの素の吉永小百合を思ったら、
あんまり違和感ないです。
永遠のマドンナだなぁ~
弟の鉄郎のむちゃくちゃぶりは筆舌に尽くしがたく、
十三回忌や小春の結婚式を見事なまでにぶち壊し、
小春たちを絶望させてしまう・・・
ドタバタコメディじゃないんだから、
あれはないでしょ!
寅さんのような「へんてこな人物の面白エピソード」
で笑わす映画ならいいのですが、
「ヒューマンドラマ」を目指すなら、明らかにいきすぎた
脚本だと正直思います。
でも、「愛すべきニセ医者」を見事に演じた鶴瓶は
ここでも「愛すべき放蕩者」を力の限り熱演。
彼の可愛らしさが伝わるのはずっと後になってからで、それまでは
問題を起こしても起こしても見捨てない姉を
周囲の人たちも観客も
「なんで?」とむしろ冷ややかに観てしまうのですが、ね。
この姉弟には、すぐには思い入れできないような
際立ったキャラクターの設定をしておきながら、
脇役の人たちはどこにでもいるような
あるいは観ている人自身を投影できるような
フツーの人たち。
鉄郎の兄やその家族、近所の自転車屋に歯医者、
(カメオ出演の有名タレントたちは余計でしたが)
まわりを固めるアンサンブル陣は良かったです。
登場人物ではないけれど、若くして亡くなった吟子の夫が
鉄郎に小春の名付け親を頼んだいきさつ。
「鉄郎くんは小さいころからあまりほめられないで
大人になったんだ。
ちょっとくらい変な名前でもいいじゃないか。
鉄郎くんに花を持たせて
うんと感謝してあげよう。」
吟子は、亡き夫のこの言葉に励まされながら
女手ひとつで小春を育て、義母につくし、
鉄郎にまで心を配ってきたのですね。
「その人の思いによりそって
最後までつきあってあげるのが
私たちのできることです」
民間ホスピスの「みどりのいえ」の所長さん。
エンドロールには「きぼうのいえ」という実在する施設テロップが。
この映画を通して、こういう志の高い団体があることを
知ることができました。
病に侵されて先の見えない鉄郎は不幸だけれど、
しっかり向き合って見守ってくれる人たちを得て、
とても幸せにみえました。
死期を悟った鶴瓶の表情は清清しく、
体はぼろぼろなんだけど、仏様の御許に向かう人の
透き通った心というか、
あまりにリアルで・・・涙以上の感動でした。
エンドロールで、1960年の映画「おとうと」の
市川昆監督への献辞がありましが、
そういえば、弱っていく弟をみまもる姉の悲しさとか、
リボンで腕をつなぐところとか、
オマージュといえるところもありましたね。
寅さん映画のように、一風変わった主人公を通して
きっとこの映画では「家族」を描きたかったのでしょうが、
なんだかラストにかけて、ちょっと社会派っぽくなったり、
市川監督へのトリビュートシーンとかで、
ちょっと違った雰囲気になってしまったのですが・・・
ラストで、
鉄郎をさんざん毛嫌いしていたおばあちゃんが
小春の二度目の結婚前夜に言うせりふに救われました。
「ほら、あの人も呼んでやったらいいじゃないの」
「きっと喜んで来ますよ」
「そう、汗いっぱいかきながらね」
童女のようなおばあちゃんの向うに
鉄郎の笑顔がみえた気がしました。