劇場公開日 2009年8月8日

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「いろいろ工夫して詰め込んでいる割に、テーマの掘り下げが不十分で惜しかったです。」南極料理人 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0いろいろ工夫して詰め込んでいる割に、テーマの掘り下げが不十分で惜しかったです。

2010年7月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 7月9日(金)までmovix柏の葉でリバイバル上映されています。800円。
 評判のいい作品で、料理が美味しそうだったとの感想がおおかった口コミに乗せられてみました。けれどもいろんな要素を詰め込んでいるようで、どれも掘り下げが無く、結局何が伝えたいのか、よく分からない作品でした。

 原作がエッセイだし、登場人物も8人の男が、雪原に閉じ込められた南極の基地に1年半も暮らす日常を綴ったドキュメンタリー手法の作品だけに、なかなかドラマとしての盛り上げる要素が少ないのは仕方ありません。
 しかし本作も、飽食の現代を制限ある基地生活を通じて、観客に考えさせようとする意図は見えました。物資は豊富に備えても、スタッフの偏食によって、特定メニューが作れなくなります。また氷を溶かして作る水は、手間がかかり、シャワーでジャブジャブするとすぐに深刻な水不足となってしまいました。
 そして家族に電話するのも、1分740円も電話代がかかってしまうのです。こんな不便な生活を描くことで、日本で普通に暮らしていることの有り難みが実感できました。

 そんな中で、1年半も調理担当として過ごした西村は、ラストに日本に戻って、家族とハンバーガーを「うまい」と頬張るとき、この間まで過ごした基地生活が夢のような希薄な体験に思えてしまうとぽつり漏らすのです。
 しかし西村の表情は、日本に戻って、ごく普通の生活に戻ったときの実感の方が、夢うつつのようであり、基地生活を過ごしている時の方が、生き生きとしていました。
 人は、限られた環境に投げ込まれる方が、生き甲斐を強く意識するのかも知れません。 だからもう少し日本に帰ってからの西村に、帰国後の日常生活についての違和感について語らせてほしかったです。

 料理の描写は、基地生活らしく、無骨に撮っていているのでグルメな人からすれば雑な撮り方にクレームもあることでしょう。しかし、「南極料理人」というイメージからすれば、登山食に近いものを想像していました。ところが想像以上に多種多彩なメニューが登場して驚き。マグロのお刺身やフランス料理のフルコース、さらには誕生日ケーキまで登場します。いずれも調理を担当する西村の手順が詳しく描かれるので、食欲がいたく刺激されました。前半は料理の種類も多く、まるで『かもめ食堂』や『めがね』のように淡々と料理が作られていきます。
 中でも豪快だったのは、ローストビーフの作り方。フライパンでは焼けない肉の塊を、鍬に差し込み、油を塗って、火をつけて炙るという大胆さ。もちろん外で、松明のように火がついた肉を振り回しながら、焼くのです。ついでにその火でそばにいた同僚を脅して、鬼ごっこまでするとは何とも暇な人たちです。

 食が充実していると、孤独な基地生活もそれなりに充実するものです。アフター5には、バーもオープンしてカクテルまであるなど酒もたっぷりあります。
 それでも、1年を過ぎたあたりから、メンバーは次第に壊れていきます。あるものはラーメン欠乏症になったり、あるものはシャワーを使い放題にして、水不足に知らぬフリをしたり、あるものはバターを舐めまくったり。そんな幼児化が目立つスタッフに切れた西村も、職場放棄して寝込んでしまいます。あれほど調理好きだったのに。
 本作の最大の不満点は、随所におかしくなっていくスタッフの問題点が、終盤うやむやにされて、いきなり帰国の日にジャンプしてしまうことです。もう少し、この部分葛藤を描くべきでした。

 面白い点は、こんな環境でも、しっかり男女の恋が描かれていることです。長期間単身赴任することは、夫婦や恋人の間にもすきま風が吹くものです。西村も娘のひと言には、どきりとさせられました。なかでも電話で恋人に振られてしまった兄やんの恋が凄いのです。その国際電話を取り次いでいたオペレーターのKDD清水さんに恋をします。この顛末はぜひラストで確認ください。

 ところで国費で衣食住全て、支給されている隊員たちは、いつも食事しているとか、余暇に昂じているとか、適当に仕事をこなしているとしか見えませんでした。もっと使命感をもって仕事をして欲しかったです。ホームシックなんて、贅沢ですよ。こりゃ、税金泥棒どもめ!

流山の小地蔵