劇場公開日 2009年5月8日

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「 レッドクリフと比べて、無骨でワイルドな作品。戦記物やゴツゴツとぶつかり合う男同士のガチンコ演技がお好きな方は必見でしょう。」ウォーロード 男たちの誓い 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 レッドクリフと比べて、無骨でワイルドな作品。戦記物やゴツゴツとぶつかり合う男同士のガチンコ演技がお好きな方は必見でしょう。

2009年4月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

●太平天国の乱とは?
 本題に入る前に、主人公の将軍パンが戦って全滅させられた相手の太平天国の乱とはいかなるものだったか、おさらいしておきます。

 太平天国の乱は、中国清代に起きた大規模な反乱です。
 洪秀全を天王とし、キリスト教の信仰を紐帯とした組織太平天国によって起こされました。官僚登用試験に失敗し、約40日間病床に臥せっていたが、その間見た不思議な夢が、彼を信仰へと導いたのです。その夢とは上帝ヤハウェと思われる気品漂う老人から破邪の剣を与えられ、またイエスらしい中年の男から妖を斬る手助けを受けたというものでした。洪秀全はキリスト教の教えの中でも特に上帝が唯一神であることを強く意識し、偶像破壊を熱心に行いました。元々多神教的な土地柄である中国では儒教・道教・仏教にまつわる廟が多かったが、それらを破壊し、ただ上帝だけをあがめることを求めた。

 日本で言えば、一向宗が一揆により加賀一国を占領してしまったように、同じような信仰上のバックヤードを持つ、太平天国の信徒達によって組織された軍隊は、勇猛果敢で無敵の勢いがあったのです。

 それに比べて、清軍は先立つアヘン戦争で消耗し、またアロー号戦争をも同時進行で戦わなければならなず、広大な国土に分散配置した結果、正面からぶつかる事もままならない事態となっていたのです。

★★★★☆
●さてここからが本題のレビュー
 そんな状況の中で、太平天国軍に臨んだ鶴川の闘いで、将軍パンの湖軍1600名が味方の魁軍から見殺しにされて全滅してしまったのは、仕方なかったことでしょう。

 失意のパンが出会うのが、運命の女リィエン。子供のようにリィエンに縋り付き、部下が一人一人惨殺されて、自分だけが生き残った身の上を語り出します。惨めに泣き叫ぶパンを演じているのは、ジェット・リー。こんな演技を誰が、予想できるかというくらい哀れでした。
 そして、そんなパンに母性本能をくすぐられたのか、リィエンは一夜を共にします。この逢瀬が、後の悲劇に繋がるとは、思いも寄りませんでした。

 後に合流することになる盗賊団の村の頭目アルフの妻が、リィエンだったのです。官軍の将軍であることがバレたパンは、村から出ろとアルフから通告されます。その時清軍が村を急襲して、盗品を蓄えた食料を根こそぎ奪っていくのです。

 パンの提案で、アルフたち盗賊団は、清軍の正規軍となること決意し、その日から太平天国軍との闘いに明け暮れることとなったのです。
 但しアルフが清軍に合流する条件に投名状による義兄弟の契りを、パンに約束させるのです。それは裏切ったら死を伴う、命がけの約束でした。

 パンを中心に、鉄壁の結束力で軍功を重ねていった元盗賊団。彼らが村を出たときは100人程度の軍勢でした。初陣での舒城攻略の褒美として、 4000名程度に増強され、山軍と呼ばれる天下に名を馳せる軍隊に育っていました。しかし、彼らの増長を心良しとしない朝廷は、山軍からの太平天国本拠地南京攻略の建議を認めようとしません。しびれを切らしたパンは、勝手に蘇州へ侵攻します。

 蘇州城を1年も包囲したものの、山軍は朝廷から食料の補給を閉ざされて、飢え死の絶対絶命のピンチに。
 パンは、絶対に頭を下げたくなかった魁軍のクイ将軍を訪ねます。そして南京攻略時の戦利品折半を条件に、10日分の食料を得ます。
 一方アルフは単身、蘇州城に忍び込み、城主ホアンから部下の命の保証と引き替えに、降伏の確約を取り付けます。

 しかし、食料は限られている中で、今の兵数と同数の捕虜を食わせるだけの余裕が山軍には、ありませんでした。そして南京攻略を急がないと、魁軍が先に南京に着いてしまいます。
 軍隊による民への略奪をやめさせるために戦ってきたパンにとって、略奪を常とするライバル魁軍の部隊に先攻させるわけには行かなかったのです。
 兵糧確保のため、パンは蘇州城兵4000名の虐殺を断腸の思いで決断します。しかし、信義を重んじるアルフは、断固反対して譲りません。やむを得ずパンは、アルフを幽閉して虐殺を断行します。
 リーダーとして非情な決断を迫られたパンの苦悩が色濃く滲んだシーンでした。それはまた、演じるジェット・リーがジェット・リーであることを忘れて、新たな性格俳優として新生した瞬間でもあったのです。
 また、心の襞を描くことを得意としているピーター・チャン監督の真骨頂を表したといって過言ではないでしょう。

 これが元になり、パンとアルフの間に、溝が深まります。それに加えて、南京攻略後、野心を募らせるパンは、リィエンへの占有欲も募らせていきます。

 投名状に一番純粋であったウーヤンは、二人の義兄弟の対立に苦悩するものの、最後には、その原点に立ち返ります。裏切りは死の制裁あるのみであると。

 3人の義兄弟の固い団結が美談で描かれるだけに、その宿命の結末には、胸が痛みました。ウーヤンを演じる金城武は、これまで優しい役が印象的でした。しかし男臭い本作の中で、アンディ・ラウには及ばないものの、義に生きる男気ぷりに、突き抜けた演技を見せていたと思います。

 レッドクリフと比べて、無骨でワイルドな作品。戦記物やゴツゴツとぶつかり合う男同士のガチンコ演技がお好きな方は必見でしょう。難を言えばラストで時間切れか、急に進行が早くなり、ストーリーが分かりづらくなってしまいます。但し歴史物としては、破綻せずよくまとまっていると思います。

流山の小地蔵