「 ラストがよかっただけに、もう少し縮めて、ストーリー展開を際ただせれば、素晴らしい感動作となっていたことでしょう。やや残念です。」セントアンナの奇跡 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ラストがよかっただけに、もう少し縮めて、ストーリー展開を際ただせれば、素晴らしい感動作となっていたことでしょう。やや残念です。
出だしはすごくミステリーでよかったのです。何しろ郵便局の窓口で、黒人の係員が初老の男の顔を見るなり、いきなりドイツ製の古いピストルで撃ち殺すのですが、警察や記者の尋問にも黙秘して語りません。
現代で起きた殺人事件から始まった本編は、いったいどんな展開になるのか、全く予想がつかないままに、第二次大戦末期のムッソリーニが退陣し、内戦状態にあったイタリアに話が飛びます。
ただそこに行くまでに、ちょっとご注目あれ!冒頭登場する実業家風の紳士をお忘れなきように。
既出のヘクターという黒人が起こした殺人事件を報じた新聞記事を、その紳士はカフェで見かけて、食い入るように読み、驚きのあまりにカップを落としてしまうのです。このシーンは、一見何にも関係ないように見えて、ラストの感動シーンへの重要な伏線となっているので忘れないでください。
さて、そのイタリア戦線で、アメリカ軍は実験的に黒人部隊を投入していました。戦闘中見かけた少年アンジェロを救おうとしたため、ヘクターほか4人の黒人戦闘員は、部隊から離れて、小さな村に身を寄せます。
ここでの4人の黒人と、村の人々の交じりあうところが本編ドラマの主要部分となっていきます。何といっても、黒人を見たことがない村人にとって、人種差別なんて想像すらできなかったのです。言葉が通じない黒人を同じ人間として扱ってくれるばかりか、中にはベッドのお供までしてくれる美女まで登場!4人の黒人にとって、ここは奇跡の村といってよかったでしょう。
ただし、 2時間40分の長編は、アンジェロとの遭遇や村人との交流の部分でかなり饒舌でした。テンポが悪く、人種差別を超えた人間同士の混じりあいの感動が、よく描き切れていないのではと感じました。
さらに途中から、レジスタンスがドイツ兵捕虜を連れて合流することで、アンジェラが語ろることを怖がっていたセント・アンナの大虐殺(女こどもを中心に市民560名が虐殺)の全貌が明らかにされます。
このときも捕虜となったドイツ兵は、大虐殺の時になぜアンジェラだけは逃がそうとしたのか、その心理描写が描かれていません。
大虐殺の裏側には、レジスタンスのリーダーがセント・アンナにやってくるという密告があり、事情で遅れたため、その場にいた無関係の市民が、ドイツ軍の犠牲になってしまったのでした。
どうやらレジスタンスの内部に通報者がいるみたいです。裏切り者は誰か?一時疑心暗鬼になるレジスタンスと村人を前にして、割とあっさりネタバレしてしまうのも残念です。もっとドキドキさせて欲しかったですね。
通報者の手引きで、小さな村にレジスタンス掃討のためドイツ軍が襲いかかり、次々と村人たちは皆殺しにあいます。一般人とレジスタンスの区別がつかないための処置でした。
4人の黒人たちも激しく応戦するものの、ヘクターは弾丸に倒れます。この辺は、迫力ある戦闘シーンでした。
傷ついたヘクターを見つけたドイツ軍の将軍は、何故かヘクターを見逃して立ち去ります。結局ヘクターは、後から救出にきた味方に救われるのですが、もう少しドイツ軍の将軍の、無駄に人を殺したくないというヒューマンな気持ちに至った経緯にも、詳しく触れて欲しかったですね。
そして黒人たちが命がけで救ったアンジェラは、どうやら殺されはしなかったようです。ただ虐殺のショックで精神に障害を来していたアンジェラは、どうなったのでしょうか?すごく気になります。しかし、その後のアンジェラの消息は触れられることはありませんでした。
さてさて、話はまた現代に戻ります。
殺人犯として裁かれる身となっていたヘクターは、誰かが高額な保釈金を払って、保釈されます。
保釈金を払った人物の代理人曰く、イタリアでお世話になった人というではありませんか。仲間も村人も、みんな死んだはずなのにとヘクターは不審がります。小地蔵も、そんな人いたっけと思いました。
ヘクターは代理人の誘導のまま、保釈金を支払ったある人物と再会します。そのラストは凄く感動しました、う~ん、これこそセント・アンナの奇跡でしたね。
一人の少年を救おうとした人々の願いが紡いだ奇跡と言うべきでしょうか。人の絆の有り難さが身に染みるラストシーンでありました。
結局ヘクターがわざわざ当時のドイツ軍の銃で撃ち殺そうとしたのは、かの裏切り者だったのかもしれませんね。
ラストがよかっただけに、もう少し縮めて、ストーリー展開を際ただせれば、素晴らしい感動作となっていたことでしょう。やや残念です。