「徹夜明けでも感動しっぱなしでした。」風が強く吹いている 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
徹夜明けでも感動しっぱなしでした。
邦画で今年最高に感動しました。素晴らしい作品です。
弱小陸上チームが箱根駅伝を目指す物語。でも単なるスポ根ではなくて、駅伝1区間ごとに小ネタの笑いと涙がある飽きさせない作りなんです。ラブコメならぬスポコメとでもいいましょうか。とにかく笑えます。
もう一つは、この手のストーリーはダメチームがいろいろなエピソードを得て、優勝という奇跡を起こすというものが定番だろうと思います。けれども本作は、端から優勝など望んでいません。箱根駅伝に出て、せめて10位以内のシード権が得られれば、本望だと割りきっているのです。ただ大学陸上界で箱根駅伝に出場することだけでも、凄いことではあります。
このチームにとって、順位よりも大切なことは、どれだけ自分が自らの走りに納得して、生きる実感を得たか。そして、10人のメンバーがいかに一体となって走れたか、その絆の強さを実感したくて走ったのであって、順位など関係なかったのです。
だから主将のハイジは、膝の故障がありつつも、二度と走れなくなる選手生命をかけて出場したのも、その為でした。
だから単なる優勝を目的としたスポ根映画ではなくて、何のために走るのか?を追求している奥の深い作品なのです。それは、何のために生きるのか?という人生の問題集の探求とほぼ同じ意味を持たせています。きっと純真なカケルは走ることで、この答えを見つけようとしたのでしょう。精進に励む僧侶のように。
いま公開中の映画『仏陀再誕』の主題歌が「悟りにチャレンジ」なら、こちらは「走りにチャレンジ」といったところでしょうか。
ハイジとカケルの会話を聞いていると、求道心に溢れたお坊さん同士の会話のようにも聞こえます。
もう一つ見え隠れするテーマに、才能はいらない、努力すれば誰だって必ず報われるという「凡人からの出発」という意外性が潜んでいます。
ハイジは語ります。どんなに走る才能がなくても、好きならば、走れるようになれるのだと。
その代弁者として、漫画オタクの王子が次第に変わっていく姿が描かれます。登場時点で王子は、誰がどう見ても運動能力のない、単なるオタクに過ぎませんでした。そんな王子に、絶対に箱根なんか無理じゃないかと、入部したてのカケルがぶちぎれるくらい、あり得なかったのです。
けれどもハイジは、王子の集中力に全幅の信頼を置いていました。どんなことがあっても仲間を信じる強さが、ハイジの人を引き付ける魅力です。
そんなむハイジに報いたいのと、自らがもっと強く変わろうと、王子は部員に気付かれないよう、こっそりトレーニングに励むのでした。
王子の顔つきが次第に変わっていき、彼の努力に思わず感情移入してしまいました。そして、ついに箱根で完走したとき、開口一番に出た言葉は、ハイジへの感謝の言葉でした。王子が努力の果てに得られたもの。それは、誰かのためではない、自分のための自信だったのです。
王子と同様、レース当日風邪をひいて、チームのブレーキ役となるのが、神童。毎日10キロの山道を通学していたことから、一番きつい箱根の登り区間を担当するも。失速して順位を7つも落としてしまいます。
往路1日目のラスト飾る区間の神童の苦難のゴールは、ラストのハイジに降りかかる悲劇を暗示しているかのようでした。
肝心なときに失敗すると落ち込む神童に、ハイジは彼の家族へ電話を繋ぎます。母親の口から、完走したことがどれだけ周囲を勇気づけたか気付いてもらうためでした。
たとえアクシデントに遭っても、走る気持ちさえあれば完走できることを暗に語りかけている感動シーンでしたね。
まあ、このように書くと生真面目な映画に見えるでしょうけれど、冒頭なんて、ハイジがカケルに教えるタダで飯が食える方法とは、食い逃げ+マラソンでトンズラするシーンだったのですよ。
そして、陸上部の寮でカケルが目撃したのは、ド素人の部員とタダの町工場のオヤジにしか見えない監督。そして監督代理なんてニラというアオタケ寮で飼ってる犬だったのです。スポ根にしては、ふざけすぎています。でも部員達は、意外にもにも走ったら凄いんです!カケルもびっくりしてました。
そんなカケルを演じる林遣都の完璧なフォームに、こいつこの役のためにどれだけ走り込んだのか!と驚きましたね。走る姿を見ているだけで感動ものです。
そして、膝の爆弾が爆発して、動けなくなってしまうハイジ役小出恵介のラストスパートのシーンは、きっと日本映画で語り継がれていくシーンとなることでしょう。胸が熱くなる名演です!
徹夜明けで見たのですが、全然眠くならず、冒頭から感動しっぱなしでした。