劇場公開日 2009年4月18日

四川のうた : 映画評論・批評

2009年4月14日更新

2009年4月18日よりユーロスペースほかにてロードショー

名も無き者たちの言葉によって語られる現代中国の半世紀

名も無き者たちの言葉によって語られる現代中国の半世紀。これは繁栄のため額に汗して働いてきたにもかかわらず、体制の都合で切り捨てられた労働者たちへ捧げる讃歌であり、経済成長という美名の下に失われていくものへの挽歌だ。

ジャ・ジャンクーは、音を立てて変わりゆく時代の節目を生きることに自覚的である。巨大工場に身を捧げてきた8人の労働者の思い出に、時代を体現する流行歌や詩を挿入する厳かな構成。実在の人物に俳優が混ざり込み、フィクションを溶かし込みながら物語が紡がれていくとき、立ち現れるのは、近代化の号令にくるまれた人間的な営みを抑圧する力への批判的な眼差し。先進諸国に追いついた都市の風景にこそ、虚しさを覚えるのだ。

国の在り方も、個々が体験してきた出来事も異なるが、我々の胸にも迫る普遍性がある。それは資本主義経済の綻びが、世界的に著しくなってきたことと無縁ではない。国家や企業、あるいは、一定の価値観の下で必死に生きてきた者たちが放り出されてしまったとき、人は我に返る。捧げてきた時間や砕いてきた心のあまりの大きさに愕然となり、萎えきった者たちこそ観てほしい。朝令暮改を繰り返す組織の中にあって、働き抜くことの意味は、瞬間を存分に生きることにあり、その累積によってしか人生は測れない。刻まれた皺や、疲れのにじんだ表情にこそ尊さは表われ、それは、どんなに高邁な理想や政治家の立派な掛け声より、かけがえのないものであることを、この映画は教えてくれる。

清水節

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