「本物の名作」シェルブールの雨傘 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
本物の名作
名作と呼ばれる有名な映画はテーマ曲も有名だ。「太陽がいっぱい」「ドクトル・ジバゴ」「ブーベの恋人」などのテーマ曲はそれぞれの映画の代表的なシーンとセットになって心の奥に刻まれている。本作品のテーマ曲もまた、非常に有名である。主役ふたりの場面で何度も繰り返し歌われる。特に本作はすべての台詞が歌という徹底したミュージカルであり、鼻母音の多いフランス語の歌詞は、イタリア語のカンツォーネと違って声を張り上げることが出来ないから、互いに語りかけるような歌になる。そこがこの映画の魅力にもなっている。音楽を担当したミシェル・ルグランは天才だ。
歌唱を担当したダニエル・リカーリやジョゼ・バルテルなどの歌手の歌声も素晴らしく、演者の口の動きに完璧に合っている。デジタルではない時代の映画としてこれほどのクオリティを達成できたのは、ジャック・ドゥミ監督の類まれな才能というほかはない。
90分の短い映画だが、恋と戦争、お金と生活、信頼と裏切り、赦しと幸福など、人生の岐路で悩むテーマのすべてが盛り込まれている。半世紀以上を経た現在でも新しい感動がある。本物の名作はいつまでも名作である。
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