「音楽と色彩・佇まいの美しさに圧倒される。」シェルブールの雨傘 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
音楽と色彩・佇まいの美しさに圧倒される。
遠距離恋愛の悲劇。
よくある話と言えばよくある話だけど、だからなおさらその悲劇に我がごとのように心かき乱される。遠くの親戚より近くの他人とは良く言うけど、だけどね、やっぱり純愛を期待しちゃうのに…ああ。
現代と違うのは、未婚の母に対する風当たり。
今でこそ珍しくはないけれど、この映画の設定の時代ではあり得ない、ましてやある程度の階級に属する女性には。
カトリックの国。国は違うけれど、『あなたを抱きしめる日まで』が頭をよぎる。
そんな時代を考えれば、「アルジェリアがあんな状態だから結婚は」と言いながら子をなすようなことをしていくなんて、ギイも無責任だなあと親の立場からは思う。
それが、16歳と20歳の青春なんだと言われてしまえば、そうなんだけれども。
全編歌。吹き替え。
なので今ひとつ演技的には深みにかけるけど、なんて斬新な試み。オペラを想定したそうな。
特筆すべきははその色使い。
ファッションは元より、インテリアとの兼ね合い。
一見の価値あり。
インテリア・着こなし、佇まいの手本にもしたい。
その中でも、オープニングの傘の乱舞が見事。
映像と音楽の魔術にかかったまま、物語に誘われる。
この映画を普遍のものにしているのは、なによりラストの展開だろう。
秀逸。
数年後、クリスマスの出会い。これがまた超現実的。
人生なんてそんなものさ。そうするしかないのさ。そう思いながらも二人の胸の内を推し量りながら、涙がはらはらと。
色数は少ないながらも、圧倒的な色と音楽に、いつまでも余韻に浸りきってしまう。
とはいえ、
基本ドヌーブさんありきの映画。
ジュヌヴィエーヴのこの世のものとは思えない美しさと、マドレーヌの地に足ついた美しさ。母の品格ある美しさが、美しい音楽と相まって、夢の世界に連れて行ってくれる。ピリリと胡椒を効かせた甘い世界。
戦争が引き裂いた二人の悲劇。長距離恋愛の悲劇。周りにもよく転がっているし、ドラマの題材としてはありきたりのもの。
その王道の恋愛物語を、シンプルに枝葉なく描き出した映画として、この映画以上のものがこれからも生まれるのだろうか?
叶わなかった恋に想いを馳せつつ、夢に浸れる映画です。