「見守ることで満ちる想い」いけちゃんとぼく かみぃさんの映画レビュー(感想・評価)
見守ることで満ちる想い
自ブログより抜粋で。
--
小学生を主人公にはしているが、この映画は大人視点で観てこその味わいがあるのよ。
監督は、とぼけたいけちゃんの見た目からは想像できない、しっかりとした背景が根底にあってこその大人視点のドラマを見せたいがため、ネタバレ気味のオープニングシーンを入れたんじゃなかろうか。
今、この映画に出てくる育ち盛りの子供がいてもおかしくないくらいの親世代に希求力のある渡辺美里が主題歌を担当しているのも、この映画の狙うターゲット層を物語っていよう。
この映画をヨシオの成長記の側から観れば、いけちゃんは子供の想像力が生んだ「イマジナリー・フレンド」であり、ヨシオの成長とともに、いずれは別れの時が来るのは必然となる。
一方いけちゃんは、いずれ別れが来ることを知った上で、ヨシオが大人になっていく様子を見守っている。
このいけちゃんの姿は、子供が成長するにしたがって親から離れていく大人の寂しさや、大人が掛ける一言一言が子供に与える影響を象徴しているかのようだ。
思えばいけちゃんに限らず、この映画に出てくる大人たちは、「傷が前にあるのは勇気の印」だの、「大きい器は水を溜めるのに時間がかかる」だの、含蓄のある言葉をヨシオに与える。
そういった言葉はすぐに結果を生むわけではないが、そのさりげない積み重ねが少年の人間としての糧となって、やがては次の世代へと影響を与えていくのだろう。
と同時に、この物語はヨシオを想ういけちゃんのラブストーリーでもある。
いけちゃんの声を務める蒼井優の巧さもあって、ヨシオとじゃれ合ういけちゃんの微笑ましさといったらない。
また、彼女がどんな想いでヨシオを見守っているのかを考えると、いつかくる別れに向けて切なさも倍増。
一途にヨシオを想う気持ちから発せられる言葉で彼が強くなっていく。それを喜びに感じるいけちゃん。そんな彼女の純粋な姿に胸を打たれる。
ポイントはこのラブストーリーが叶わぬ片思いの物語ではなく、叶った恋を補う充足の物語だということ。
だからこそ約束された別れに悲壮感はなく、満ち足りた充実感が爽やかな感動をもたらす。
逆らうことのできない別れの時を迎えるとき、人から必要とされなくなったと感じるより、伝えるべきことはすべて伝えたとの満足感と共に旅立つ。そんな人生でありたいと、そんなことにまで思いをはせることができる懐の深い映画なのだ。