「善悪という相対的でしかない価値観が意味をなさなくなるとき」私の中のあなた えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
善悪という相対的でしかない価値観が意味をなさなくなるとき
素晴らしい作品。
小さな頃は好き嫌い、良い悪いがはっきり言えたけど、大人になるにつれ、その辺が判然としなくなってくる。
命を取り巻くテーマがそのひとつだ。例えば、赤ちゃんポスト。死刑制度。クローン羊。喉の奥に小骨が引っかかったような気持ち悪さがある。
本作でも命を題材に、様々な登場人物の群像劇が実に丁寧に描かれているが、彼らひとりひとりの善悪は極めて曖昧だ。
強い意志で14年間、白血病の長女を守り続け、しかも体外受精で「移植用」の次女をも生み出した母親は悪?善?それを是認した父親は?教唆した医師は?姉が助かる可能性を捨てて「自分の身体を守りたい」と移植拒否の訴訟を起こした次女は?
結局のところ、善悪という相対的でしかない価値観が意味をなさなくなるとき、僕らはきっと相対的ではなく、絶対的な何かに触れているのだと思う。
命も愛も、その人のものでしかあり得ないという絶対的の尊さ、力強さ、儚さに、僕らは息をのみ、心を打たれ、悶絶しながら、止めどなく涙を流す。
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