劇場公開日 2009年4月25日

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「遠くの親戚より、近くの他人。」グラン・トリノ とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5遠くの親戚より、近くの他人。

2019年9月4日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

幸せ

萌える

『ベスト・キッド』や『マイフェアレディ』のような話。
 異文化の地でモデルを見失い人生をどう作っていったらいいかがわからなくなっていた少年を、導いていく老人。少年の家族との交流を絡めて描く。
 その交流が心地よい。

冒頭で葬式の食事会の隣で、誕生祝。この映画が、”生と死”を扱っていることを提示する。

でも、それだけではなくて、さりげなく社会の現状・問題を的確に押さえていく。
 人種のるつぼ。”クロ”は”クロ”だけだが、白人系はここぞとばかりにそのルーツの多様性を表現する。その中で、改めて皆移民なのだということを示す。クリニックでもここぞとばかりに人種のオンパレード。
 ファンタジーのような展開なのだが、細かい考証もしっかりしていて手抜きがない。USAの映画では、日本人役に中国人が使われたり、着物も日本人がみると?なものが多かったが、この映画ではきちっと民族を押さえている。モン族の民族衣装とか、タペストリーとか。
 また、朝鮮戦争・ベトナム戦争も絡める。モン族が、その政治的な関係の中でUSAに移り住まざるを得なかったことも織り交ぜる。
 それが全然説教臭くない。口をあんぐりと開けてしまいそうな、機関銃のように醸し出される悪口雑言で観客を煙に巻く。

 勉強するにもお金がかかるし、何をしていいのか持て余していた少年。庭いじりは、文化の違いを象徴するエピソードでもあるが、”自分らしさを作り上げていく”象徴でもあろう。
 先進国と、発展途上国の描き方だと、知的労働者と肉体労働者という対比が多いが、ここではUSAの老人が肉体労働者。その指導を受けて、ひ弱なひよこが少しずつ力をつけていく。ウォルトとタオの表情の変化がまぶしい。

 だが、そこに入る邪魔。
 タオとスパイダーたちを分けたものは何なのか?
 ウォルトの紹介で職を得るタオ。ウォルトがかわいがっているから、イタ公もアイルランド野郎もタオを受け入れた。USAでは転職する際は、前職からの紹介状を必要とすると聞いたこともある。実力主義とはいえ、意外にのコネ文化。
 スパイダーたちにはウォルトのような人はいたのか?コネがなく、就職できなければたむろするしかない。

それだけではなく、信仰の対比。
 上から目線で知ったつもりになって説教する若い神父。
 初めて会ったのに、ウォルトの抱える困難を喝破して見せたモン族のまじないし。

根底の文化は一緒のはずなのに相容れない家族と、異文化なのに付き合いが発展していくご近所。

大人と子どものバディは『パーフェクト・ワールド』でも描いていた。とはいえ、監督がここで表現したかったのは、『パーフェクトワールド』の焼き直しではなかろう。
つい、”教訓”を読み取りたくなる。

そしてクライマックス。
 ヒーローものとしてみれば、格好の良い幕切れ。
 でも、私がタオやスーならば、一生悔いが残る。特に、スーモタオもウォルトがやったことを知らないのだから。

そして家族との関係。自分ならば?
 心が通じた人に肩入れしたい気持ちと、でも家族をないがしろにしていいのかという思いとの狭間で、納得がいかない。

結局、自分勝手な人だったんだな。

とみいじょん