「本作の魅力は、予測不可能な恋の行方。その意外性には、スリリングさも感じて、女性の方なら、多いにときめきを感じられるでしょう。」それでも恋するバルセロナ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
本作の魅力は、予測不可能な恋の行方。その意外性には、スリリングさも感じて、女性の方なら、多いにときめきを感じられるでしょう。
小地蔵は『ノーカントリー』からハビエル・バルデム出演作を見ています。まぁひいきの俳優さんですね。ペネロペ・クルスは、『ボルベール〈帰郷〉』も見たけれど、あまりいい印象は持っていませんでした。
ところが本作では、アカデミー助演女優賞受賞取っただけに、二人のキャスティングはどんぴしゃり。
バルデムは、一見恋の達人のように振る舞いながら、元妻のマリアの前ではたじたじになるヤサ男ぶりを発揮。歯の浮くような口説き文句を連発しつつ、修羅場には、弱々しい男になってしまう変身ぶりが、これほど似合うヤツはいません。『コレラの時代の愛』でも決まっていましたね。
一方のペネロペは、情熱の余りに愛するフアンを罵倒し、殺しかねないくらいの狂おしさを実にうまく演じているのです。彼女の狂気が激しいほど、4角関係というあり得ない物語にリアルティが吹き込まれました。
本作の魅力は、予測不可能な恋の行方。独りの男に関わる3人の女性の話ときたら、誰でもかなりの修羅場を感じられるでしょう。ところが4角関係がパズルでも解くかのように、恋に時間差がついて、どの女性もそれなりにハッピーな時を過ごせる展開なんです。 その意外性には、スリリングさも感じて、女性の方なら、多いにときめきを感じられるでしょう。
だいたい冒頭からして、信じがたい始まり。クリスティーナとヴッキーはそれぞれに芸術的な目的をもってバルセロナの旅を楽しんでいる最中に、ある画家のパーティで見かけただけのフアンに、いきなり口説かれるのです。いきなり自家用機に乗って、旅をしないか。もちろんセックスもするよって。
目が点になる二人をよそに、今を楽しまなくちゃとあっけらかんとといってのけるフアンのセリフには驚きました。
だいたい普通の映画なら、ここで「ファックユー」と啖呵とともにヤサ男の股間を蹴り押して、そそくさと場をさるのが相場でしょう。
けれども、そこは好奇心旺盛なクリスティーナ。恋愛体質の自由人は、危険な香りのする恋に弱かったです。即答でフアンの誘惑にOKを出します。
それに対して、ヴッキーは婚約中の慎重派。
でもガウディを愛する彼女は、心の中では婚約者には感じないトキメキを求めていたのでした。二人の親友同士のキャラの違いがきっちり描かれて、分かりやすかったです。
さあここからは、アレン監督の『すんドめ』ぶりが発揮されます。
旅先で、フアンとクリスティーナとメイクラブを楽しもうとしたとき、ワインの飲ませすぎでクリスティーナは胃潰瘍を発症して入院してしまいます。ここ意外にも、あと少しで、ラブラブだったのにというシーンが随所に出てきて、見る者をヤキモキさせるのです。
この入院で生まれた2週間というブランクは、ヴッキーをトキメかす時間となりました。フアンを警戒するヴッキーでも、フアンの仕組んだ心憎い演出に、ついつい落城してしまうのです。そのふたりのロマンチックな一夜はぜひスクリーンでご覧になってください。
退院したクリスティーナがフアンに抱きつくところで、嫉妬深い目線を送るヴッキーが印象的でした。
クリスティーナとフアンは同棲するようになります、そこに元妻のマリアが登場して
二人の生活に割り込みます。
長くなったので省略しますが、この3人での生活も、あっと驚く睦まじさを見せます。信じがたいでしょ(^^ゞ
フアンとマリアのような芸術コンビでは、自由と情熱がぶつかり合って主張し合う関係でも、クリスティーナという緩衝帯がいれば、うまく繋がっていけたのでした。なるほどと納得の設定でした。
でもラストは、少しあっけなかったですね。フアンとヴッキーが再接近するのですが、もう少し修羅場があっても良かったと思います。それで★一つ落としました。
ウッディ・アレンは、バルセロナをキャラクターの一人にしたような物語にしたいと思って、本作の脚本を書き下ろしたそうです。なので監督のバルセロナ・LOVEが一杯詰まっています。まるで元妻マリアのように、情熱的で艶やかで、時に危険な香りを放つ街の表情を随所に散りばめて、バルセロナの風貌が本作の独自なロマンチックさを煌びやかに作り出していました。
バックの音楽も、軽快でスリリングな恋の展開によく合っていました。日々の怠惰な生活から抜け出して、トキメキを求める人には必見ですよ!