「夫婦である奇跡。」60歳のラブレター ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
夫婦である奇跡。
自分の両親を見ていても感じることだが、
60歳を超えてなお、夫婦仲良く暮らしていること自体が、
これからは奇跡なんだろうな…と思う。
ここでも描かれる熟年離婚、年金欲しさに待ったをかける
妻も最近では多いようだが^^;
いかんせん、結婚した時はそんな未来を予想しなかったろう。
昔読んだ雑誌のエッセイで(その著者は離婚経験者だったが)
公園のベンチで日向ぼっこをしている老夫婦に憧れたという。
自分も歳月をかけてあんな夫婦になりたかった…。
でも、なれなかった。だから今苦しんでいる夫婦を助けたいと
カウンセラーになったのだそうだ。それを読んだ時、
何事も経験なんだな…とただ思った。離婚を経験して初めて、
結婚の偉大さ(大げさか)に気付いたという話だった。
今作は実際に一般から募った8万通を超えるラブレターを元に、
3組のカップルを通して描かれる話だった。けっこうリアルだ^^;
最も共感したのはイッセー尾形と綾戸智恵演ずる魚屋夫婦。
この夫婦、口を開けば憎まれ口ばかり。相手をけなしては
愛を確認する。という^^;バカげた夫婦ではあるのだが、可愛い。
ミュージシャンとその追っかけだった。という設定からして、
互いの向いている方向(価値観)が同じということが伝わるので
何を欲しているのかが分かるのも頷ける。
糖尿病治療を頑張った旦那へのご褒美が、あの時期に
あんな形で彼の前に現れるシーンにはさすがに涙がこぼれた。
言わずとも相手に伝わる以心伝心の呼吸に叶うものはない。
5年前に妻を亡くし、年頃の娘と二人暮らしの医師・井上順と
翻訳家・戸田恵子の間に芽生える恋もなかなか面白かった。
亡くした妻とは正反対の女性を好きになる会話のヘタな男と、
もう結婚など出来ないと開き直り仕事一筋の可愛くない女。
社会的に恵まれた地位の人ほど、案外孤独で寂しいものだ。
仕事が出来るから私はモテないなどと息巻く中年女が、
(その態度だからモテないんだと思いますけどねぇ)
彼の娘と対等に対峙してしまう精神年齢の低さにも笑えた。
おそらく彼には、そういう素直さが新鮮だったのかなと思う。
「50過ぎたらIQより愛橋」と言った中尾ミエの言葉を思い出す。
仕事一筋で家庭を顧みず、若い愛人までつくる夫・中村雅俊と
専業主婦として尽くしてきた原田美枝子が、ついに熟年離婚。
実際にも息子の問題で大変だったろう中村雅俊が^^;
仕事ができてもかなりのロクデナシ(珍しい)という役を好演、
定年を機に、身勝手な決断で人生が崩れる男を演じている。
対して、我慢に我慢を重ねてきた妻は、戸田恵子の家政婦と
なったのがきっかけで、有名作家からデートに誘われ有頂天。
どんどん綺麗になる元妻を尻目に、落ちぶれていく元夫は、
新婚旅行で訪れた先から30年ぶりに届いた妻のラブレターを
読んで愕然とし、とある決断をするが…。
この夫婦を見ていて悲しいと思ったのは、なんでこの奥さんが
初めから自分を愛していない夫と結婚したんだろうという点。
親の薦めで仕方なく…という世間的な問題もあるが、私はこの
奥さんのラブレターを聞いていて悲しくてたまらなかった。
「愛」は漠然と芽生えるもので「頑張って生み出す」ものではない。
彼女の頑張りが夫には当然と映り、ありがとうも愛しているとも
おそらくは言って貰えなかった毎日だったろう。それでも自分が
「好きだ」という気持ちで、人間は頑張れるものなんだと思った。
お腹を空かせた元夫のために鯵を焼き、鞄を持ち、上着を着せ、
「いってらっしゃいませ。」と見送る自分をバカみたい…と笑った
彼女を見て涙が出てきた。あぁこのヒトは、こんなにこの亭主が
好きで好きでたまらなかったのか、というのが伝わるからである。
この奥さんは、自分にこれでもかと尽くす親切な作家よりも、
尽くしても尽くし足りない武骨な愛想無しが好きだということだ。
これもまた、究極の愛。になるんだろうか^^;
昔話ではないけど、男にとっては金の草鞋に相当する妻だな。
(憎みきれないろくでなし~♪より、ミッシェ~ル♪か、やっぱ^^;)