劇場公開日 2008年12月27日

「【トルコEU加盟問題を背景に、人間の善性による憎しみ、哀しみを越えて”赦し”の心に至る姿を、連関する3章構成で描いた作品。】」そして、私たちは愛に帰る NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【トルコEU加盟問題を背景に、人間の善性による憎しみ、哀しみを越えて”赦し”の心に至る姿を、連関する3章構成で描いた作品。】

2021年7月7日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

怖い

知的

幸せ

ー トルコのEU加盟問題の奥深さは、万人が知る所であろう。
 今作は、その問題を背景に起こった幾つかの悲劇を、人間の善性による”赦し”により救済する悲劇に関わった3組の親子の姿を見事な作品構成で描いた作品である。ー

◆原題 "Auf der anderen Seite" (”憎しみを越えて” 次のページへ・・と私は意訳した・・)

<Caution! 以下、内容に触れています。>

◆章立てで、赦しの物語は進む・・。

 1.「イェテルの死」
  ・ブレーメンに住む、年金生活のアリは、一緒に暮らしてくれる女性を探す。
  彼は、娘の学費を稼ぐために、娼婦をしているイェテルを見初め、お金を出す事で共に住むことに・・。
  彼の家には、ドイツの大学教授であるネジャットが来ていたが、3人は穏やかに夕食を摂る。
  だが、アリは酒に酔い、勢いでイェテルを殴り殺してしまう・・。
  ー アリは愚かしいが、息子を自慢にし、奔放に暮らす初老の男。
    この章では、アリよりもトルコ人であるイェテルに対するトルコ人男性達の、
    ”自警警察のような宗教観による””平安あれ”と言う言葉が、恐ろしく描かれる。
    イェテルは、娘アイテンの学費を稼ぐために、自らの行為を”汚れている”と自覚しているのに・・。ー

 2.「ロッテの死」
  ・トルコ、イスタンブールで、EU加盟に反対する反政府デモに参加しているアイテン。彼女は、警官から奪った”あるモノ”をビルの屋上に隠したまま、ドイツに不法潜入する。同士から、食事は安い大学の食堂で‥、と言われたアイテンは、親切な学生シャーロット(ロッテ)の行為により、部屋をシェアしてもらい、恋に落ちる。警察に捕まったアイテンはロッテにある頼み事をするが・・。
  ー この章では、人間の善性が描かれる。哀しい結果になるのだが・・。ー

 3.「天国のほとりで」
  ・ロッテの死の真相を得るために、ロッテの母がイスタンブールにやって来る。そこには、父の犯した罪がきっかけで大学教授の職を捨て、町の本屋のオーナーになっていたネジャットが住んでいる。彼は、父が誤って殺してしまったイェテルの娘、アイテンを探していた・・。
  ー ネジャットの、ロッテの母に対し、温かく接する姿が、じんわりと沁みる・・。ロッテの母の哀しみを抱えつつも、気丈に振舞う姿も・・。ー

<ファティ・アキン監督作品は、「女は二度決断する」を鑑賞し、ダイアンクルーガー演じた、哀しき女性の姿とともに驚き、
 実在した殺人鬼「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」を観て”うーむ・・”とモヤモヤした気分のまま、今作を鑑賞。
 結論から言うと、今作は人間の善性と、赦しの心を描いた秀作である。
 エンドロールで、牢獄から解き放れた父アリを、海岸で延々と待つネジャットの姿が印象的である。>

NOBU