「死に至る病とは」パンドラム 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
死に至る病とは
とある宇宙船内で冷凍睡眠から目覚めた男2人。
しかし船は原因不明の機能不全を起こしており、更には不気味な生物が船内を徘徊していた。冷凍睡眠の副作用によって記憶が曖昧な中、彼らは睡眠の間に宇宙船内で何が起こったのかを探り始める……。
まずこの『パンドラム』というタイトルからして謎めいている。
どうやら造語らしく、辞書で引いても出てこない。
某傑作ホラーゲームに“ペンヂュラム(振り子)”という、それはそれは素敵なデザインの怪物が登場するのだが、まあそいつは関係無さそうですねッ。
パンドラの箱といえばギリシャ神話に登場するありとあらゆる災厄が封じ込められた箱で、それを開けたせいでこの世は今みたいなシンドイ世界に成り下がったんだそうな。で、慌ててその蓋を閉めた際、唯一箱の中に残ったのが“希望”。
まあ何が残ったかについては諸説あるらしく、それ以上突っ込むのは面倒なんでやめるが、要はこう言いたいらしい。
「この生き苦しい世界でも、未来に希望を抱いているから我々は生き続けていられる(あるいは生き続けねばならない)」
では逆に、希望すら消え失せた人間は一体どうなってしまうのか?
劇中でいう“パンドラム”とは、長期の冷凍睡眠から目覚めた人間が何らかの理由で深い絶望感に苛まれ、周囲に危害を及ぼし兼ねない情緒不安定な状態に陥る事を指す。
睡眠から目覚めた誰が“パンドラム”に陥ったのか。
その人物は一体何に絶望を抱いたのか。
これが本作のサスペンスの肝であり、この点において物語はなかなかの緊迫感をみせる。特に終盤の畳み掛けるようなどんでん返しは上々の出来映え。
しかし、過去のSFホラーと大差無い宇宙船内の美術、どうにも『ディセント』を連想させるクリーチャーデザインなど、全体を通して新味の薄い点が残念。
また、クリーチャーとの戦闘とその正体の解明にもかなりの比重を置いている為、サスペンスがやりたいのかホラーアクションがやりたいのかどっちつかずになった上、物語のテンポも悪くなってしまった印象。本作の製作者の監督作『イベントホライゾン』も過去のSFホラーのゴッタ煮だったが、こちらはその辺りのバランスが抜群だったと思う。
何より、この映画で重要な要素となる孤独感や閉塞感といった部分が、物語が進むに連れてどんどん薄れていくように感じられたのが痛い。
志は高い映画だが、今一歩か。だが決して悪くない出来。
<2010/9/20鑑賞>