劇場公開日 2008年10月4日

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「よくぞゴヤ自身が火刑にならなかったものだ」宮廷画家ゴヤは見た きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0よくぞゴヤ自身が火刑にならなかったものだ

2022年10月10日
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鑑賞方法:DVD/BD

風刺画家として、民衆のみならずスペイン王室の正体を描き続けたゴヤ。

まず3つの絵を検索して確かめて欲しい。
(URLを記載出来ないのでご容赦を)、
・「カルロス4世の家族」、
・「マドリード、1808年5月3日」、そして
・「我が子を喰らうサトゥルヌス」。

ゴヤが描いた「カルロス4世の家族」の集団肖像画はとみに有名。
しかしあの巨大な横長の肖像画を見ると
あんなふうに自分たちを描かれてしまうことに、王族たちからはどこか反発がなかったのだろうかといつも思う。
カルロス国王、マリア王妃、そして皇太子たち王女たち・・人間の弱さ、狡猾さ、汚さと愚かさが、隠しても隠しても、その歪んだ面構えににじみ出ている。ここまで内面が暴かれてしまっている。
内なる”汚物“をあからさまに晒されて、この作品を見て王も王妃も平気だったのだろうか?
( 無垢なはずの幼い皇太子女でさえも、ゴヤの絵筆はその先の彼らの失墜を予感させて容赦ないではないか)。

「馬上の后のエピソードシーン」はゴヤの毒気を表しての挿入だろう。
皮肉たっぷりをギリギリ隠して描かれたこの王族の肖像画。一歩間違えば、ゴヤ自身が火炙りになりかねない危険な立場にあったはずなのだ。

(この集団肖像画が王への追従なのかあるいは痛烈な風刺なのかWikipediaの「カルロス4世の家族」が詳しい)。

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異端審問の応酬。
愛娘を奪還しようとする父親と教会の戦いは壮絶。

キャスティングされたナタリー・ポートマンは、実際の彼女はエルサレム生まれのユダヤ人だ。そのナタリー・ポートマンをキャスティングしてユダヤ教徒であるがゆえの苦難の歴史・拷問の様を撮ったミロス・フォアマン監督。
サスペンスと人の世の哀れを娯楽仕立てで上手く撮る人だ。

そしてハビエル・バルデム。
いつもながらだらしなさが売りの俳優。
逃げて誤魔化してこの世を立ち回り、ついには自ら再興させた罠(=異端審問の拷問)によって今度は自分が被告となり死罪となるわけだが、このロレンス司祭の犬畜生ぶりや、風のように体制になびく愚鈍な民衆の狂気がもの凄い。

それにしても
宮廷画家として”皇室御用画家“であると同時に、教会批判のインモラルな風刺版画をばら撒き、そして英国軍とフランス軍の侵攻にあたっては反体制の“戦場カメラマン”でもあったフランシスコ・デ・ゴヤ。
同時代のベラスケスと並ぶスペイン宮廷画家の最高峰ではあるけれど、その仕事の振れ幅は実に奇異であったことが、その作品群から伺い知れて大変面白かった。
・・たくさんのゴヤの作品のモデルたちがスクリーンに蘇って蠢いていて、これはなかなかの映画だった。

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原題Goya's Ghosts.
「宮廷画家ゴヤは見た」は邦題ではあるけれど、「キリスト教会の堕落」と「ユダヤ人へのホロコーストの罪過」をヨーロッパの観客に否が応でも象徴的に突きつけて「あんたらの姿を鏡にうつして『見せて』やろうか?」と迫るゴヤばりのこの強引さは、きっとアレルギー反応も起こすだろうから、
そうであれば製作側の悪意は成功だったと言えるはずである。

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きりん
きりんさんのコメント
2022年10月10日

jack0001さんのレビューで、監督ご自身がご両親をアウシュヴィッツで亡くしておられることを知りました。

きりん