劇場公開日 2008年12月13日

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「それでも、試写会終了時には大きな拍手に包まれましたから、見る人の大部分は感激できる作品なんだと思います。」空へ 救いの翼 RESCUE WINGS 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0それでも、試写会終了時には大きな拍手に包まれましたから、見る人の大部分は感激できる作品なんだと思います。

2008年11月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 自衛隊の全面協力で、本物の救援機や護衛艦をフル動員し、リアルティーある救出シーンを実現した作品。しかも剣山をはじめ3000メートル級の山岳地帯での救出活動には見応えありました。

 それなのに、映画的には退屈でした。至近で鑑賞した『252』や昨年公開の『守護神』と比べて、ドラマ性が弱いからだと思います。
 主演の新人高山侑子は、初主演ながら落ち着いた演技で、新人レスキュー女性パイロット役を演じておりました。
 彼女がこの主演を射止めるのは運命的でした。父親が、役柄と全く同じ航空自衛隊のレスキューパイロットをしており、新潟の航空救難団に所属していたため、中越地震のとき活躍されたそうです。あいにく地震直後の訓練中に事故に遭い、殉職。地震の時、燃料切れで、救出できなかった人がいたことを悔やんでいたそうです。
 彼女は、地震被害者の追悼式に出席していたところをスカウトされたとのこと。
 まさにこの作品のストーリーを地でいく父親の遺志を継いで本作に臨んだのでした。だから役に気合いが入っている感じがひしひし伝わってきます。
 三浦友和の隊長も渋くてよかったです。

 だめなのは、演出と脚本です。
 本物の自衛機やモチベーションがしっかりした役者などいい素材を持ちながら、それをどう料理していくかは監督の力量の問題。
 よかったところは冒頭の川島遥風の少女時代に母親をレスキューに救って貰い、大雨の中をかけだして、救援ヘリを見上げて感激するシーン。主人公がどうしてレスキューを目指そうとしたか、よくわかるシーンでした。
 その後いきなりパイロットとしてデビューしたシーンに飛んでしまったのは問題有りです。女性の自衛隊員として本来ならいろんな壁があったはずなのに、そういう訓練のつらさが全く描けていません。
 “救えないこと”の辛さについても、燃料切れで割とあっさり見捨てるので安心してみていられました。『252』のように危険を顧みず突っ込むところがなかったので、淡々としたような感じになってしまったのでしょう。

 ラストの山場に持ってきたシーンも、ある狭いところに新人パイロットが着地するのにはどれほど難しいか、前振りがあってしかるべきでした。
 それまでのところで浜辺の防波堤の狭いところに、いとも簡単に着陸するところまで見せていたのです。そんなシーンをあえて織り込んでしまったら、ラストだって簡単に降りられるはずという予見を観客に持たせてしまい、マイナスにしかならないと思います。

 トータルで見て、この作品は何を伝えたいのかあまり意図がよくわかりませんでした。まぁ自衛隊のかっこいいシーンばかりつないでいて、自衛隊のPRにはなったことでしょう。
 反対に、一機くらい犠牲になるシーンがあったら、ドラマ的には盛り上がっていたのではと思います。

 それでも、試写会終了時には大きな拍手に包まれましたから、見る人の大部分は感激できる作品なんだと思います。

流山の小地蔵