その日のまえにのレビュー・感想・評価
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いきなり『ハウス』のセルフパロディから・・・そしてUFO
大林流の幻想的叙事詩といった雰囲気が十分伝わってきて、岩手出身の妻とし子(永作)から宮沢賢治へと発展し、いつの間にか「あめゆじゅとてちてけんじゃ」という言葉の世界に魅了される作品となっていました。
元は重松清の短編らしいのですが、日野原(南原)家族の描写だけではなく、セロ弾きのクラムボン君繋がりで保険外交員の柴田理恵親子、そして浜岡の街繋がりで今井雅之と筧利夫のエピソード、さらに彼らの過去にあたる海辺でのオカちゃんのパートへと広がりを見せているのです。
最も幻想的だったのはセロ弾きのクラムボン君と謎の駅長君、そして宮沢賢治の亡くなった妹トシについてでした。残りの人生を賭してまで夫と息子を気遣う永作博美の優しさには感動するのですが、残された人たちにとっては“その日のあとに”といったイメージが残ります。
この映画制作の時点での大林監督はまだガン告知は受けていないと思うのですが、とし子がそのまま大林監督と重なって見えてしょうがない。「忘れてもいいよ」なんて言葉は本当に言い出しそうだけど、ファンの心の中にはきっと残ると思う。
ロケ地は常総線の水海道駅。その駅前からの商店街はかなりシャッターが閉まっているのですが、今はどうなってるんでしょう。住むには居心地が良さそうなのですが・・・
ナンチャンが・・・
儚さが素晴らしい存在の幽霊的動き
・・・
原作が生かせてない!!ガッカリ
原作は連作短編になっていて、この夫婦の話以外にもいくつかのエピソードがあり、それらが最後にリンクしているんです。だけどさ、映画化するにあたりその全てにスポットを当てるのは無理なわけよ。なのにこれらのエピソードを盛り込んじゃって、どれもが中途半端な描写になってしまっていたところが本当残念。2時間で描くのには限界ああるんだから、もっと端折った方がよかっただろうに。
私が「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」のこの夫婦以外のエピソードですごく印象的でいい話だな、と思ったのは、「ヒア・カムズ・ザ・サン」のトシとそのお母さんの物語だったんですよ。柴田理恵がお母さん役だったんですが、なんかさらっと描かれちゃって全然感動できずがっかりでした。宝生舞の下手な演技の入江睦美の話とかは端折ってもよかったから、もっとトシとお母さんの話をしっかり描いて欲しかったなぁ。
台詞もねー、小説の中に出てくる台詞をそのまんま使ってるんです。だけどその使い方が悪いのか、小説では感動的だった台詞も映画になったら陳腐になっちゃったり、なんかただ言葉を羅列しただけだったり、ともかく全然心に響いてこない。なんか本当台詞です、という感じで全然リアルじゃなかったんですよね。
妻の最後の手紙も、私は原作を読んだ時、あの短い手紙にぐっときたんですよ。だけどあの手紙の見せ方もなんかイマイチでがっかり。
あとは妻が死んでからが長い!ラストが無駄に長い。そろそろエンドロールかな、という感じなのに、続く、続く。全然終わらなくてちょっとイライラしちゃいました。
それから大林監督の味なんだろうけど、映像もねぇ。なんか安っぽいCGで、あの電車の駅長君のシーンもは?という感じだったし、死んだとし子を登場させるのも、思い出しているシーンならわかるのですが、その登場のさせ方もなんだか微妙でした。ファンタジーと言っていいものなのかどうか微妙な感じ。それと同じシーンの繰り返しがあまりにも多すぎて、それがくどくてダメでした。なんであんなに繰り返しちゃうかなぁ。
それでも永作博美は原作のイメージにもぴったりだったし、自分が死ぬ「その日」を知った後、残された日々を一生懸命気丈に生きる姿はかなり」よかったです。でもナンちゃんがねー、なんでナンちゃんにしちゃったんだろう。
これ、完全に大林監督作品が好きな人向けの映画ですね。重松清さんの原作に惹かれて観に行くとちょっとがっかりになってしまう可能性大です。少なくとも私は観なければよかったと思ったので。
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