「『おくりびと』を見た人なら必見です。感動の余り涙ぐむなんて、予想外でした。」釣りキチ三平 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
『おくりびと』を見た人なら必見です。感動の余り涙ぐむなんて、予想外でした。
いくらアカデミー作品賞監督となった滝田監督でも、『釣りキチ三平』は、ちょっと息抜き程度で作った、お気軽な釣り対決の作品じゃあないのとナメてかかっておりました。
小地蔵も、原作の愛読者であり、映画になりようがないネアカな釣り勝負の漫画作品であることをしっていたので、どうしても偏見を持っていたのです。
しかし、やられました。さすがは滝田監督です。手を抜きません。『釣りキチ三平』でまさか、感動の余り涙ぐむなんて、予想外でした。
しかも『おくりびと』と同じテンポなんです。秋田と山形とロケ場所は違っていますが、溢れる自然を借景にゆったりとドラマが進行し、登場人物は、コミカルでヒューマン。見ているだけでも癒されていくところは共通しています。
また田舎の自然を愛する主人公の三平とそんな田舎暮らしを否定して三平を都会に連れて行こうとする姉の愛子との対立の構図を持ってきたのも、納棺師の仕事を巡って夫婦間で対立した『おくりびと』の構図に似ておりました。
『おくりびと』を見た人なら必見ですよ。
ただ冒頭では、原作通り太陽の申し子のような少年三平が、大人の釣りキチを釣り勝負手でやり込めるシーンが続きます。そこはそこで主役の須賀健太が三平に負けないくらいの笑顔で好演しています。『三丁目の夕日』ではいつも泣きべそかいているイメージが強かったのですが、完璧にイメチェン。彼の演技で空恐ろしいところは、釣り勝負で獲物を見るや、たちまち笑顔が消えて、目つきが鋭くなり、勝負モードにチェンジするのです。 ホントに釣りキチ三平そのものに化けてしまっているのです。あの歳であんな演技を楽々こなしてしまうのなら、将来は凄い俳優に化けてしまうことでしょう。
三平の釣り勝負の作品だとばかり思っていたら、中盤から滝田監督は仕掛けてきました。“夜鳴き谷の怪魚”を巡って、もし釣れなかったら愛子と都会で暮らすことを約束して、三平たちが夜鳴き谷に着いた時のこと。
伝説の楽園とも言われた夜鳴き谷の美しい風景にほだされて、愛子は耳にかけていたイヤホンを外すのです。
秋田の実家に戻ってきたから、愛子は田舎の自然を拒絶していました。耳にはいつもイヤホンをかけて、都会向きの音楽に集中していたのです。
イヤホンを外した瞬間、溢れるぐらい夜鳴き谷が飛び込み、周りの美しい風景が短いショットで次々挿入されます。その時愛子の表情が一瞬和んだところで、涙ぐんでしまいました。
観客は、分かってしまうのです。余計な説明がなくとも。愛子がなぜ田舎の自然を拒絶していたのか。それは、釣りキチが昂じて死んでしまった父の命を奪った自然が憎かったからなのです。でも同時にふるさとの自然は否応なしに愛子を包んで癒してくれます。
その拒絶と癒しの、相反する感情を滝田監督は映像だけで表現したのでした。さすがは、アカデミー賞を取っただけのことはある監督であると感じさせられました。
ドラマの後半は、愛子が忘れようとした故郷の自然を愛する気持ちを取り戻す話を取り入れたところが凄くよくて、泣かされました。
それにリンクして、魚紳さんの釣りに対するトラウマが晴れていくストーリーも良かったです。
夜鳴き谷の怪物との釣り対決シーンも迫力ある演出でしたが、CGがはっきりそれと分かる描き方であったのだけが残念です。CGを担当した白組に問題ありそう(^^ゞ