「マイケル・マンらしい粋なエンディング」パブリック・エネミーズ マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
マイケル・マンらしい粋なエンディング
金持ちだけをターゲットにし、一般ピープルは傷つけない。仲間を裏切らず、仲間を見捨てない。デリンジャーには独特の犯罪理念と美学があった。冒頭の脱獄シーンだけで、それが十分にわかる。しかも、向かうところ敵なしの生き生きとした人生だった。
それが一転するのは、ひとりの捜査官の出現だ。それまでの概念を覆す科学的な捜査方法と冷静な分析力は、デリンジャーの知恵を遙かに上回った。日常のさりげない言動が命取りになることをまだ知らないのだ。古きよき時代を思うがまま生きようとする男と、近代捜査の幕開けが重なった瞬間だった。つい、迂闊な行動をとるデリンジャーに肩入れして力が入る。
徐々に追い詰められていくデリンジャー。映画の前半を盛り上げていた軽快なギターが印象的なサウンドは鳴りを潜め、ジョニー・デップの顔つきも険しいものになっていく。クリスチャン・ベイルの薄い唇はいかにも頭が切れそうだ。デリンジャーの彼女ビル役のマリオン・コティヤールにいたっては、どうすればあんな表情が作れるのか、とくにラスト・シーンでは唸らせられる。マイケル・マンらしい粋なエンディングが、彼女と無骨なスティーヴン・ラングの演技で完璧なものになった。
スマートだが、デリンジャーを英雄にしないぎりぎりの演出がうまい。
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