ノウイング : 映画評論・批評
2009年6月30日更新
2009年7月10日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
大味なディザスター映画とは一線を画す新味がたっぷり
VFXの技術向上が目覚ましい現代のディザスター・ムービーの観客は、建物や街がいくつか崩壊した程度では満足してくれない。というわけで、仰々しく“人類滅亡”や“地球壊滅”を謳ったこの手の映画が毎年1〜2本のペースでお目見えする。ところが太陽の異常活動が引き起こす天変地異を映像化したこの映画は、50年前のタイムカプセルから奇妙な数列メモが発掘される冒頭からして、すこぶる新鮮で面白い。そこには同時多発テロなど、過去と近未来の大災害を予知した数字がずらずらと記されていたのだ。
理屈で捉えれば「そんなのあり?」と幾らでもツッコミを入れられるが、謎めいた仕掛けに観る者を引き込む“映画的リアリティ”が素晴らしい。1枚のメモをめぐる荒唐無稽な仮説があれよあれよと現実化していくスリルが、ニコラス・ケイジ扮する宇宙物理学者の行動を通して、思いのほかきめ細やかに描かれているのだ。神秘的なミステリーが壮大なスペクタクルと化し、さらに極限下の家族劇へ転じていく。登場人物が身近な者を抱きしめて愛の言葉を囁くシーンに、悲しみを帯びた情感がしっかりと宿っている点も、このジャンルとしては異例の繊細さだ。
これらの要素に“謎の訪問者”のエピソードまで盛り込んだのはよくばりすぎだし、宗教的色合いの濃いラストのイメージにも呆気にとられてしまう。しかし前半の飛行機墜落シーンは文句なしに凄い。地上の人間の視点からの意外な角度で映像化されたその激烈なクラッシュ描写には、見せ場が来るぞ来るぞと身構えていた筆者も驚きを禁じえなかった。
(高橋諭治)