劇場公開日 2009年1月24日

「前半と違う、後半の裏切りが見どころ」エレジー こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5前半と違う、後半の裏切りが見どころ

2013年3月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

前半は、ベン・キングスレー演じる芸術家肌のエロじじいと、ファザコン・チックなインテリ好きの若い娘の恋(ペネロペ・クルスのエロい雰囲気に注目)という、ヨーロッパの映画監督なら誰でも撮りたがるようなパターンの内容で「相も変わらず、こういうのが欧米は好きだなあ」と、半分呆れて見ていたのだが、一度別れてからの後半、ガラッと変わったあまりの切ない内容にホロリとしてしまった。映画ファンにとって、こういう監督の「観客への裏切り」は、内容はともかく、とても楽しいものなのである。

 その後半というのは、主人公の教授のもとへ突然、別れた娘が訪ねてくる。娘から、自分がガンにかかって余命がいくばくもない、ことを告げられた教授は愕然とし、取り乱してしまう。この映画の見どころは、このときからの教授の心理描写である。

 この前に親友を亡くしていた教授は、自分が死と背中合わせであることを意識しはじめていた。そこに死と正面から向き合う、以前に恋していた自分よりも若い娘が目の前に現れて、さらに死が身近に迫っていることを感じる。すると、死が近づいている若い娘よりも、老人の教授のほうが死に恐怖を感じている姿を、監督は情もなく、演出してみせるのだ。

 私の心情は、どちらかというと教授のほうに傾いていたので、死に対して狼狽する様子は哀しげで切なくうつるものだった。しかし、若い人ならば若い娘の心情を思うだろうから、教授の姿は哀れでみすぼらしいものに見えるだろう。特に、映画の前半は若い娘相手でもがんばれる若さを、教授は誇っていたのだから、余計に情けなく見えてくるに違いない。おそらくこの映画の監督は、観る人が男女や年齢によって印象の違いが出ることを見計らって演出したに違いない。そういう演出の妙が好きな映画ファンにとっては、ちょっと悪意を感じなくはないが、とても惹かれてしまうのだ。この監督、なかなかの策士である。

 この映画には、他にも面白い見どころがあるのだが、教授と娘が一度別れるきっかけもみすごせない部分だ。娘は、自分の好きな彼として教授を両親に紹介しようとするのだが、教授は老人に近づいている自分を娘の両親や友人たちに見せたくないために、娘の家に行こうとしない。その引け目で別れることになるのだが、その教授の気持ちは私はよく理解できる。オヤジの自分を堂々とさらけだして、若い娘の彼氏です、なんて他人にはなかなか言えないものだ。そういうオヤジの気持ちを代弁してくれているのも、この映画に好感を持つ要因になるはずと思う。

こもねこ