劇場公開日 2010年11月6日

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「巧みなラストへの伏線、そしてハートウォームな内容で特選ものの作品です。」リトル・ランボーズ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0巧みなラストへの伏線、そしてハートウォームな内容で特選ものの作品です。

2010年10月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 少年たちのハートウォームな絆を結びあうストーリーに、試写会場は大きな拍手に包まれました。ジェニングス監督の少年時代の実体験を元に作られているだけに、演出に心がこもっているのです。なぜ映画作りを目指そうとしたか、その当時はどんな感性を持っていたのか、80年代へのオマージュとなる音楽なども交えながら情感たっぷりに描いて行きます。単に、映画好きの少年の物語というよりも、共に父親がいない孤独な少年同士が、いがみ合いを乗り越え、深く結びついていく姿に感動しました。
 技術的にも、どんな小さなエピソードも、巧みにラストへの伏線になっていくところに巧さを感じさせます。
 普段映画を見ないという方にもぜひお勧めしたい作品です。

 主人公のウィルは、人を疑わない純真な性格。それに比べてカーターは、まだ子供なのにあざとく人を騙し、万引きや盗みを平気でやってしまうタイプだったのです。ウィルの大切な父親の時計までも、騙して奪い取ってしまう悪辣さ。
 カーターの部屋で初めてテレビを見たとき写っていた『ランボー』にウィルは心酔します。そして、カーターの命令で自主映画の俳優を無理矢理やらされるなかで、映画の魅力にはまっていくのでした。カーターは、兄のビデオカメラを勝手に拝借して、BBCの少年映画コンクールに応募しようとしていたのです。
 リアクション芸人もたじろぎそうな無茶振りシーンばかりでも、ウィルが喜々として参加したのは、映画の興味だけでなくお互い父親がいない孤独な境遇という心の痛みが共鳴させていたように思えました。

 しかしウィルの一家は、プリスマ同胞教会という原理主義的な教会の信者で、宗教上の理由から一切テレビや映画など娯楽が禁止されていたのです。母親が教会にのめり込む理由は、信者のひとりと再婚を進めていたから。父親ぜんとして、ウィルにカーターとの断交を迫るその信者は断交しないしなければ、一家を教会から追放すると脅迫します。

 強制的に教会に連行されて、撮影をすっぽかしてしまったウィルに腹を立てたカーターは。二人は絶交状態に。それでもプレゼントを持って、詫びに来たカーターを母親に迷惑をかけまいと、ウィルは追い返してしまいます。
 捨てられたままだったこのプレゼントの中身がラストにわかるのですが、その中身にカーターの贖罪の気持ちがこもってジ~ンときました。

 その後ウィルは、父親もどきと対決し、一家は教会から離脱。見事自由を獲得します。なかなか痛快なシーンでした。撮影に復帰してみたら、ひょんなことでフランスからの短期留学生で俳優志望のディディエが合流。美男子で親分肌のディディエを慕って、次々クラスメートが参加して、撮影は本格的なものになっていく反面、撮影を仕切ろうとしたカーターは、次第に邪魔者扱いとなり。とうとうウィルまでもが、カーターを追い出してしまいます。
 けれども、その後の撮影でディディエが事故を起こしてしまい、カーターは命の危機に。そしてカメラは故障し、撮影はストップしてしまいました。カーターはどうなるのか、そして二人の友情は、壊れたまま戻らないのか、さらに映画は完成するのか、感動のラストはぜひ劇場でご確認ください。

 映画『僕らのミライへ逆回転』での手作り映画は、かなりのチープさでしたが、ウィルの作った作品は、結構傑作です。手作りの素材でも、それなりの作品に編集して仕上げてしまうジェニングス監督の手腕は相当のものだと感心しました。

 おっと、どうしても付け加えておきたい感動シーンをネタバレしておきましょう。カーターの兄のローレンスは、カーターを使用人のようにこき使って、兄弟らしい愛情を全く見せようとしませんでした。それでもたったひとりの兄を、どんな酷い仕打ちを受けてもカーターは、敬愛してやまなかったのです。ウィルがそんなローレンスを親友として批判したとき、カーターは全力で兄の素晴らしさを力説します。その熱く語るところがたまたまカメラに写っていて、それをローレンスが見てしまうのですね。そしたら彼は別人のように懺悔の涙を流すのです。加えてローレンスとカーターの本当の関係が明かされるのてで、ついつい思わずもらい泣きしてしまいました。 このローレンス役は「ゴシップガール」のチャックと同じ俳優が演じています。
 序盤徹底した悪ガキで登場するカーターですが、後半はがらりと印象が変わります。表面だけで悪人かどうか、一面だけでは決められないのだということも伝えてくれるストーリーでもあったのです。

 それにしても主演のビル・ミルナーの演技の自然さには、舌を巻きました。全く演技の勉強をせず、一発でオーデションに受かった後、いきなり出演してこの演技ですからね、凄い天才子役だと思います。

流山の小地蔵