「電脳世界は、熱を持てるか」GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
電脳世界は、熱を持てるか
「スカイ・クロラ」などの作品で知られる押井守監督が、自身の出世作を当時最先端の技術を用いて再構築したSFアニメ作品。
「手塚治虫のブッダ」という無味無臭のトンデモアニメに落胆した後の、本作の観賞である。そこで感じたのは、高い画力と、物語に対する極限まで高められた愛情と精神性が揃って初めて、アニメという世界を深く、強く鍛え上げることが出来るという確信である。
電脳空間を、当時の最先端技術として考えられたCGシーンを多用して作り上げている本作。「コンピュータ」と「サイボーグ」。この要素が組み合わされた時点で、作品に漂う硬さ、冷たさが容易に想像できる。しかし、本作に限っていえば、その想像は軽々と覆されることになる。
水場での肉弾戦において、画面に溢れ出す瑞々しい雫の質感。多国籍の近未来都市に乱立する看板の、仄かに優しい、柔らかい看板の明かり。極めて無機質な未来の情報世界にあって、驚くほどに熱を帯びる物質の生々しさが、観客の安心感と物語世界への共感を生み出している。
もちろん、この映画空間を作り出しているのは何やら観客の理解を徹底して遮断するような長台詞の応酬であり、専門的な用語が生み出す異次元感覚である。それでも、観客が感じるのは嫌悪感ではなく、その難攻不落な舞台劇の如き台詞乱立に体が慣れ、「とにかく、身を委ねていれば何とかなる」という不思議な浮遊感である。
これは、単に体裁を整えるだけのキザな言葉の並べ立てでは生まれてこない感覚であり、作り手の言葉への強い信頼と、ぎりぎりの処で観客が理解してくれるはずだという自信がなければ出来ない。精神世界を理解へと高める「情熱」と、それを全力で追いかける観客の「情熱」。
一見、淡白に思える本作の世界を支えているのは、作り手と観客の、互いを求め、信頼しあう中で生まれる「熱」。気が付くと、その気持ちの良い温度に心が和らぐ。どこか人間臭い空間が、ここにはある。