「お互いに失恋の痛手を負った二人が、手を合わせ寄り添ってお互いを慰め合うところが癒されます。」MW ムウ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
お互いに失恋の痛手を負った二人が、手を合わせ寄り添ってお互いを慰め合うところが癒されます。
鉄道映画祭で見ました。
5年経っても全く色あせません。本作の大ヒットでその後バンド映画が数多く作られるようになった元祖的作品と言えるでしょう。本作で宮崎あおいは、ただ見るだけの役割でしたが、その後『少年メリケンサック』では、マネージャー役、そして『ソラニン』では、ラストでついにライブデビューを果たしています。当時本作を見た観客は、宮崎あおいが4年後に自らギターを抱えて、ステージに上がる姿を予想できたでしょうか。
本作の面白いところは、ロックシンガーを目指し、ひとりは平凡な幸福を求める、同じ名前ながら対照的な二人のナナと奈々を描くところ。偶然出会い、偶然ルームシェアーすることになった二人のナナは、性格も真反対でした。
ナナはツンデレナな性格。表面では突っ張っていつつも、内面は深い孤独感のなかで、人とのふれあいを求めているのです。性格も外見も『ミレニアム』シリーズのリスベットによく似ています。
対する奈々は、超がつくほどお節介焼き。最初はいいのだけど、そのマイペースぶりが他人にはうっとうしくなるのです。問題は、本人が全くそれに気がつかないノーテンキなところです。奈々のほうが人当たりは良さそうでも、何面はかなりジコチュウで、人との関係を無意識に遮断してしまっているのです。
余談ですが、彼氏に一生懸命尽くしているのに何でつれない態度を取るのか、ヤキモキされている人いませんか。そういう人は、DVDで本作を見たら、どこがまずいかよ~く分かりますよ。愛することで、大切なポイントは、見返りを求めないこと。彼氏からの愛情を独占したあまりに、あれやこれや相手が頼んでいないことまで世話を焼いて、そのぶん拘束しようとすると、男は本能的にスタスタ逃げ出すのです。そのトリモチのようなネバネバした愛され方には、何ともイヤ~な生理的な嫌悪感を感じてしまうのですね。
そんな性格を見抜いたナナが奈々につけたニックネームが、「ナナ」でなく、「ハチ」でした。まるで忠犬ハチ公のようだというのです。まぁ、リチャード・ギアに、“HACHI”で呼びかけられる宮崎あおいは、かわいらしくていいんじゃないかと思いましたけどね。
見所は、お互いに失恋の痛手を負った二人が、手を合わせ寄り添ってお互いを慰め合うところ。本当の優しさが滲み出てくるためには、何かで傷つき、深い挫折を味わないと出てこないものではないでしょうか。ナナと奈々は、相手の痛みが自分のことのように思えて、自然と寄り添ったいたのでした。失恋を経験した人には、とても癒されるシーンだと思います。
疑問点としては、レンが引き抜かれナナのバンドを脱退した時に、愛し合いながらもナナとレンが別れてしまうところ。別れるほどの理由がなくて、どうして遠距離の交際でもつきあえないのか疑問に思いました。勝手にバンドを抜けることで、メンバーとの大喧嘩になってしまうようなシーンがあれば、その後の二人の関係に納得できたと思います。
それとシナリオに偶然××するという設定が多すぎます。たとえ原作がそうであっても、映像にするとアラが目立ちますので、シナリオの段階で何らかのリアルティを付ける補筆が必要ではないでしょうか。
ただ宮崎あおいと中島美嘉の存在感が素晴らしいので、シナリオのアラをかなりカバーしていると思います。太陽のように明るいキャラの宮崎あおいを楽しめる1本です。
そして中島美嘉のライブシーンと主題歌も素晴らしい楽曲でした。