劇場公開日 2008年11月8日

「皆さんは、この作品でいくつ人々の優しさに触れられるでしょうか。一度この映画で彼らの歌声に触れたら、きっと人生観が変わりますよ。まさに「YES WE CAN CAN!」です。」ヤング@ハート 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0皆さんは、この作品でいくつ人々の優しさに触れられるでしょうか。一度この映画で彼らの歌声に触れたら、きっと人生観が変わりますよ。まさに「YES WE CAN CAN!」です。

2008年10月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 皆さんは、聖書の内容に、疑問を持たれることが多いでしょう。何で隣人に与えなければならないのだと。そんなの偽善ではないかと心の中でつぶやく人も多いのではないでしょうか。

 そういう方でも、この作品を見たら、少々見方が変わります。ヤング@ハートのメンバーである齢80歳のお迎えが近いおじいちゃん、おばあちゃんたちにとって、歌うことが歓びであり、生きる意味のすべてになっていたのです。
 そして、自分たちが歌うことで、観客が元気づけられて、生きる勇気を与えられることが、すごく幸福なことなんだと語ります。

 ヤング@ハートのメンバーには欲得や打算というものが微塵も感じられません。
 世界中をツアーしたり、各地のVIPと出会えたり、今となっては人気グループとなった現在であれば、求めようとすればそれなりの名声と経済収入が得られるでしょう。
 でもメンバー全員が高齢で、病持ち。普通の高齢者なら、たとえ大金が舞い込む仕事よりも、わが身大事でじっと動かず療養に励みたいはずなのです。
 しかし体調のなさや体力のなさをものとせず、ヤング@ハートのメンバーたちは死の直前まで愚痴一つ言わず歌い続けようとします。彼らを駆り立てるものは、自分たちが歌うことで、大勢の人を幸福に出来るということなんだ。与えることが歓びなんだという感激があるからなのです。 みんなそれを生き甲斐にしているから、ハードなリハーサルもサボらず出席できるのですね。
 メンバーへのインタビューを通じて、浮き彫りにしているのがこのドキュメンタリー作品の印象深いところでした。

 たとえ凶悪な囚人でも、ヤング@ハートの歌声は、彼らの心を掴んでします。メンバーの一人が直前に死んという知らせを聞いて、悲しみの中にあるのに、その日はちょうど刑務所慰問の日。歌うことが最高の供養だと、メンバーたちは精一杯の元気と祈りに満ちたバラードを、刑務所のコンサートで捧げました。
 その気持ちは、たちまち囚人たちに伝わり、スタンディング・オペレーションに。その様子はスクリーンにはっきり映し出されていました。
 ヤング@ハートの歌声は、囚人たちのこわばった顔つきを緩めさせ、俺たちにも明日があるのさと希望を抱かせたのです。

 コンサート前のわずか6週間の間に密着したドキュメンタリーであるにも関わらず、登場人物はみんな個性的で、ハリウッドの著名俳優に劣らぬ台詞回しです。(何せドキュメンタリーですから、台詞が上手くて当然。)
 そして、観客もこれは駄目だろうと思えるような、リズム感たっぷりの難曲に取り組んでいくリハーサル風景や、メンバーの日常生活のルポ、そして『シカゴ』の名シーンを彷彿させるメンバーが出演したミュージッククリップを挟み込んで、飽きさせない場面展開になっています。特にメンバー2名の急死の直後に気丈に歌うメンバー姿には、涙を誘われることでしょう。
 老と病と死とがすくそばに隣り合わせになっているヤング@ハートのドラマには、いつ誰がいなくなるかもしれないという緊張感を感じてしまいます。
 けれども彼らの歌声は、そんな緊張を微塵も感じさせず、聞いている観客を永遠の彼方へ誘ってくれます。彼らの人気は、生老病死の苦しみを吹き飛ばしてくれるパワーを感じさせてくれるかもしれません。
 ラストのコンサートライブは圧巻です。リハーサルで不可能とされ思えた数々の難曲を見事に歌い上げます。
 オヤジバンドが人気に鳴ってきていますが、彼らはオヤジバンド世代の更に親世代です。普段の趣味はクラッシックという高齢者たちが、クラッシュ、ラモーンズ、トーキングヘッズ、ソニックユース、コールドプレイ‥、最近のR&Bのヒット曲までロックロールをノリノリで歌い上げるのですから、驚きです。
 でも一度この映画で彼らの歌声に触れたら、きっと人生観が変わりますよ。まさに「YES WE CAN CAN!」です。

 それにしても、プロデューサーのボブは、勇敢なチャレンジャーですね。
 あえて難しい曲をメンバーたちに与えようとするのです。いつもこんな曲なんて出来ないという愚痴をよそに、厳しく忍耐強くリハーサルを重ねて、メンバーの持ち歌に変えていきます。本作品でも7曲の新曲に挑戦していきました。中には、本番直前になっても歌詞すら覚えられないという曲もあったくらいです。本番直前に見せるボブの顔は、苦悩に満ちていました。けれどボブのすごいところは、体調の善し悪しでなく、曲のイメージに挑戦してほしい人をリードボーカルに選ぶのです。そして本人が降参しない限り、辛抱強くリハーサルを重ねます。もちろん逃げたら、あっさりメンバー交代する厳しさも持ち合わせています。メンバーは、ボブは厳しい人だと口々に言います。けれど、どんな弱った高齢者にもチャンスを与えば伸ばせる、出来る!という強い信念を持ったボブに、活かす愛の姿を感じました。

 皆さんは、この作品でいくつ人々の優しさに触れられるでしょうか。

 最後に映像としても、彩度が鮮やか目で、すごく風景が美しいかったです。

流山の小地蔵